路傍の花 その66 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 午後からの準決勝も難なく勝ち抜き、中二坊組は決勝へと進んだ。午後からは王様も臨席されたため、観客の興奮は膨れ上がった。

 

 決勝の相手は、掌議ハ・インスの組だった。ハ・インス自体も弓は上手かったが、この組にはジェシンと張るほどに武芸に優れていると言われているカン・ムという儒生がいた。正直、大会はこの二人の対決に沸いたようなものだった。

 

 ソンジュンは一番手に射る。この順は変えていなかった。決勝の前に相談したのだが、初戦からの順を変えることは、かえって出来上がってきた空気を換えてしまうと意見は一致した。最初はユンシクを安心させるためだったのだ。ソンジュンとジェシンが図星図星と満点を射貫きさえすればその時点で合計20点。相手が三人共満点なことはありえず、全員9点でも計27点。ユンシクは最低7点を狙えばよかったし、もっと点数が低かったとしても引き離される心配がないのだ。そして二人の好調に引きずられるように、ユンシクの安定した心構えは、ユンシクの命中率も上げていて、7点以上を取り続けていた。

 

 相手方は、ソンジュンに下斎生の一人を当ててきた。ハ・インスの腰ぎんちゃく。下手ではないが特にうまくもない。おそらく捨て駒だ。ジェシンにはカン・ムが当然のように当たり、ユンシクはインスとの勝負となった。

 

 これが裏目に出たのは、インスの方の組だった。

 

 「あいつはさ・・・自分の思う通りにならないといらいらしてさあ・・・ドツボにはまるんだよな。」

 

 勝負を見ながらそう呟いたのがヨンハだった。ソンジュンが満点を取り続けることを前提に、下斎生には引き離されない点数を狙えと言いつけていたはずだが、彼は割と頑張っていた。それでもやはり最高でも8点の位置がやっと。カン・ムとジェシンは図星を取り続けて、彼らの番には会場中が沸いた。

 

 だから、ユンシクとインスの勝負で決着がつくはずだった。ユンシクはこれまで図星に中てた事はなく、大外しはなかったにしても、まだインスの方が一段上手い。はずだった。

 

 だが、一射目からインスは失敗した。

 

 はた目からすれば、ユンシクと同じ7点の位置に中てたことに関しては失射とは言えないだろう。だが彼にとっては失敗も失敗だったのだ。自分との勝負ということで、ユンシクに精神的な圧力をかけ、失敗させ、点差を開かせて、自分のせいで中二坊が負けたと思わせることがインスの狙いだった。そうやって仲間割れを誘い、バラバラにしてしまわねば、インスがこれまでユンシクの追い落としを狙ってことごとく心配してきた恨みは晴らせなかった。篭絡するはずだったイ・ソンジュンの友人という席を独占した他派閥の小せがれ。恥をかかせ、成均館に居づらくするはずだった新入り虐めで、逆に自分が密かに交わりを願っている妓生チョソンのお眼鏡にかなってしまったという事実を悟らされ。日々発するユンシクへの攻撃は、ことごとくその仲間に阻まれ。挙句の果てには父親の恥がユンシクに関りがあることで脅されたのだ。そして妹ヒョウンはソンジュンから完全に拒まれている。その原因の一つがユンシクの姉に絡むことなのだろうとインスが推察することに何ら無理はなかった。その証明がほんの少し前、休息時の弁当騒ぎで見せつけられたのだ。

 

 妹ヒョウンの差し入れは、彼に差し出されることさえできなかった。彼、いや、彼らの前にはたっぷりと用意された、素朴で、腹を満たす、ということを大前提にした美味いものが並び、見たくもないが、こそこそと周囲の者が話すことに寄れば、いくつかは他の儒生もごちそうになったというのだ。ユンシクの姉が身を寄せている叔父の茶店の食い物らしいが、腹持ちの良い餅は、最初から他の者にも分けるものとして差し入れられたのだろう。翻ってみれば、自分の妹は、男一人のためだとしてもお粗末な量の重箱ひとつ。中身など聞きたくもなかったが、礼を言いに来た下斎生に寄れば、肉を炊いたものとか、食紅で色を付けた三色の餅だとか。取り合いになりまして、という下斎生の口さえうっとうしい。ちらりと見れば、満足そうなイ・ソンジュンの笑み。父親から聞いた、完全な婚約の断りのこと。

 

 ユンシクが8点。インスは6点。

 

 彼のイラつきは、最高潮を迎えようとしていた。

 

 

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