路傍の花 その65 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 休息を宣言されてすぐ、その人は儒生たちのいる幔幕にやってきた。

 

 「あ~~、わからないはずだよ・・・。」

 

 つぶやいたのはヨンハ。ソンジュンとジェシンは声も掛けられなかった。

 

 二人で重箱の布包をそれぞれぶら下げてきた両班は、ユニとユニの叔父だった。声をかけたのは叔父の方で、ユニは声は出さなかったが、深くかぶった笠の下で、にっこりとほほ笑んで、敷物の上にしゃがみ込んだ四人の前に包みを解いて重箱を並べた。

 

 山菜を炊きこんだものと小豆を炊きこんだもの、二種類のおこわを丸く握ったものがそれぞれ重箱一段づつあり、それだけで腹をすかせた四人はうわあ、と声を上げた。ふふ、と小さく笑ったユニが、叔父の置いたもう一つの包をほどく。そこには柔らかく蒸した鶏を割いて、くるりと茹でた青菜でくるんだおかずがぎっしり詰まっていた。そしてその下の段には茶店の人気茶菓子、黄粉をたっぷりまぶした餅。一応、と叔父が手巾にくるんだ箸をおいてくれたが、そんなことはお構いなしに、ユンシクはためらいなく手を伸ばした。

 

 「皆さんでどうぞ。妻と姪が作ったのでね。」

 

 おこわは山菜を姪が、小豆は難しいので慣れた妻がね、それから鶏は肉屋がしっかりと香味を腹に詰めてくれたから、いい匂いがしますよ。餅は知ってますね。そう説明して、二人はにっこりと笑うと素早くその場を立ち去った。ユンシクを除く四人は、それぞれおこわを口にくわえながらその後姿をぼうっと見送るしかない素早さだった。

 

 「美味しいよ、味がしっかりついてる。」

 

 ユンシクはそんな三人にお構いなく鶏をほおばっていた。ソンジュンたちもおこわを飲み込み、おかずに手を伸ばす。ユニの叔父の言った通り、ショウガとニンニク、そして塩気がしっかりとついた鶏はやわらかく、それに青菜にはピリリとした辛みの味付けがなされていた。ごま油と唐辛子の香りがしっかりと内側にされていたのだ。疲れた体には染み渡る、濃いめの味付けだった。

 

 「こんなにたくさん、大変だったろうな。」

 

 「ユニ様はお料理もされるのか・・・。」

 

 「姉上は、僕が食事が喉を通らない時、いつも粥を炊いてくれていたから・・・。」

 

 「ユニ殿は女将の手助けもされているからな。」

 

 そんな話は上っ面だ。三人は本当は、あの男装について話し合いたい。けれど笑い声をささやかに漏らしただけで声を立てないよう用心していたユニと叔父の姿を思い出すと、不用意に話題に上らせることができなかった。

 

 「うまい。ユニ殿は山菜の握り飯をお作りになったと言っていたな。」

 

 「そうですね。小豆のおこわも塩味と豆の香りがとてもいいですが、山菜も滋味深い香りがいいですね。ユニ様の手料理か・・・。」

 

 「ショウガも一緒に蒸かされたんだろうね。香りがするよ。」

 

 そんな声が幔幕の近くまで来たヒョウンにも聞こえてきた。他の儒生も、成均館の進士食堂が用意した握り飯や、家族からの差し入れを貰ったりして賑やかな中、ヒョウンは方向を替えた。兄のいる西斎の幔幕の方へ向かったのだ。そして幔幕の真ん中で機嫌のあまりよくない様子で座っている兄に近づき、下女から取り上げた重箱をドン、と前に置いた。

 

 「どうぞ、皆さまで召し上がって。」

 

 水の入った竹筒を握っていたハ・インスは、ちらりとその重箱の包を見ると、近くでヒョウンを眩しそうに見ていた下斎生にその重箱を押し付けた。

 

 「あっちで食べればいい。」

 

 そして、周囲から人が遠ざかったのを見て、妹ヒョウンを眺め、吐き捨てた。

 

 「俺がイ・ソンジュンへの貢物のお流れを貰うとでも思ったのか。あんな一人分の重箱、差し入れとしても貧相な・・・。恥を知れ、恥を。」

 

 少し離れたところでは、うわあ、豪華な飯だ、という声が上がっていた。小ぶりの重箱二段に、四、五人の下斎生が集っている。ソンジュン様のために作らせた、わざわざ牛肉も卵もいいものを贖わせたのに、とヒョウンは泣きそうになった。貧相って何よ、と兄の冷たい言い方にも腹が立った。けれど、あっという間になくなった弁当が、このような場には全く合わない量と内容だったのだと、ヒョウンはその情景を見ても全く気付かなかった。

 

 

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