路傍の花 その63 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 しばらくは静かに過ぎた。いつも通りの成均館での講義講義、又講義の毎日。静かすぎて不気味ですらあった。ハ・インスは実家の屋敷に呼ばれることも多く、いなければ取り巻き連中も大人しい。しょせん頭分がいなければまとまることさえできないのだ。

 

 けれど成均館内は少々お祭り気分ではあったのだ。まもなく手射礼という弓の競射大会がある。清斎ごとに組となり、弓の腕前を競うのだ。三人立ちで、ヨンハのように部屋の人数が合わない者は、合わないもの同士で組むのだが、ヨンハは元からこのような競技が苦手らしく、俺はいい、と自ら競技者の枠から外れて行った。

 

 「その割に張り切った格好だよね。」

 

 と言ったのはユンシクだった。ソンジュンもそう思う。隣でジェシンはうんざりした顔をしていた。ヨンハは出もしないのに完璧な競技服を纏って勇ましく網巾を巻き、弓矢すら持っていたのだ。

 

 「何を言う!今日は観覧者が大勢いるんだぞ!」

 

 「女が来るからだろうが・・・。」

 

 さらにうんざりした顔のジェシンが持つのは使い込まれた弓だった。ソンジュンも愛用の物を手にしている。ユンシクは成均館の物を借りているが。

 

 大体において弓など引いたことのないユンシクは、手射礼が行われることになってから大変だったのだ。弦を引ききることもできずひっくり返るユンシクを、皆はあざ笑った。けれどユンシクは黙々と練習し、弓を引くのに必要なのはそれを支える足であるというソンジュンの導きにより裏山を走り、ジェシンに立ち方を教わり、最初は的にすら届かなかった矢が当たり始めたときには、儒生たちは何も言えなくなっていた。けれど点数がつく範囲に狙って射るほどの腕にはなかなかならないものだ。それでもあきらめないユンシクを見て、他の儒生たちも例年になく鍛錬に励んでいると、長年成均館にいる親父儒生アン・ドヒャンは笑っていた。

 

 「お前だってこんな目立つ大会に出るなんて思わなかったぜ!」

 

 とからかうドヒャンに、ジェシンはそっぽを向いた。中二坊は三人。ジェシンが出なければまず土俵にも立てない。実際最初、ジェシンはげ、と言って拒否反応を示した。めんどくせえ、そう言っていたのだが、ハ・インスが自分の組の自慢をユンシクにたらたらと厭味ったらしく言っているところに出くわし、逆に啖呵を切ってしまったのだ。

 

 

 

 「へえ、こんな的にも矢が届かない奴がいるのに、俺たちに勝てると思っているのか、ムン・ジェシン。」

 

 「うるせえよ、シクがどんなにドジったって、俺が全部図星に中ててやるからいいんだよ!」

 

 「それなら、俺たちに負けたら、這いつくばって頭でも提げてもらおうかな。」

 

 「じゃあ、お前らは這いつくばってシクに頭を下げるんだな。」

 

 

 

 「・・・あっちにはカン・ムがいるんだぜ、コロよ・・・。」

 

 ドヒャンが憐れみを浮かべて言うと、ジェシンはむっつりと答えた。

 

 「シクが零点さえとらなきゃ、俺とイ・ソンジュンは全部図星、満点を取ったらいい。」

 

 うわあ、と周囲が呆れる。ただ、それが無茶ではないことを皆知っていた。ジェシンもソンジュンも弓は非常に得意なのだ。ただ、手射礼は総合点だ。一人が惨憺たる成績ならば足を引っ張ることになる。

 

 皆ユンシクをかわいそうなものを見るように見ていた。ものすごい圧をジェシンからかけられたようなものだ。その上ジェシンは勝手にハ・インスと賭けをしてしまっている。ジェシンの横暴さにユンシクが振り回されているようにしか見えないのだろう。

 

 だが、ユンシクは、手射礼にユニを招待するために茶店に立ち寄った時、ユニに言っていた。自分が足手まといになりそうだけれど、少しは弓を引けるようになったから見にきて、と言った後、付け加えていたのだ。

 

 ソンジュンとジェシンが、上達の遅いユンシクを見捨てずに練習を見てくれたこと。ソンジュンは最も時間を割いてくれた。すべての基本を叩き込んでくれたのはソンジュンなのだと。そして最初は様子を見ていただけのようなジェシンが、実はこっそりとユンシクの体の変調を観察していて、激しい運動を続ける毎日のために、リンゴや菓子などを何でもないかのように与え、時には擦れて痛めた手を酒で治療してくれたりしたことを。放り投げるように与える技術への助言は、ソンジュンと鍛えた体がしっかりと弓を扱えるようになればなるほど効き目を顕し、的への的中率が上がるほど的確であること。

 

 「姉上、僕は本当に皆様に助けられています。講義で学ぶ日々も素晴らしいですが、仲間に囲まれている僕の姿も見てほしいです。母上も・・・来てくださったらいいんですけど。」

 

 

 

 他の儒生のご家族も来られるから安心して、というユンシクの招きに、ユニが来ることを皆が知ったのは、手射礼の当日のことだった。

 

 

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