路傍の花 その62 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 

 「勘や感覚で軽率に物を言うものではない・・・。」

 

 その視線の鋭さとは裏腹に、父の言葉はいつものはっきりした感じはなかった。そこにソンジュンは、父が完全にハ・インスの父親を信用していないことが推し量れた。

 

 「俺は成均館で事実を見続けています。あのように人を見下げる人もいない。そしてそれを周囲にやらせるのです。どんなに敵対関係だったとしても、最低限の礼儀や尊厳というものは相手に持つべきです。けれどあの人にはひとかけらもそれがない。忠告をしない周囲も周囲だ。同類しか集まらないその人柄は、すぐにわかりますよ。そして手紙の内容からして妹ごも同じような高ぴしゃなご様子。それが血筋でないと俺には言えません。とにかく。」

 

 まっぴらです。

 

 

 わかった、とだけ言った父を残し、ソンジュンは母に挨拶をしてから成均館に戻った。戻る途中、道端に咲く菊のような可憐な小さな白い花を見つけて思わず立ち止まった。

 

 人の歩く道、時には荷車も通り馬も走る。それでも道端に根を下ろし、花を咲かせ、こうやって人を立ち止まらせる。

 

 これ見よがしな色彩と大きさを誇る花ではない。だが、確かに人の目を惹きつけ、そして和ませる。このように生きられないのか、そう思うと、ユニとユンシクの顔が浮かぶ。

 

 例えるなら、やはり妓生のチョソンは牡丹の華麗な花弁を誇る花なのだろう。深紅に輝いて衆目を攫う。ハ・ヒョウンは花器に活けられた選ばれし花なのだろう。ただ根のない花は世話を怠ればすぐに枯れてしまう。ユニはこの菊に似た野の花だ。周囲の雑草に埋もれそうになっているが、それでも風が吹けばその白い色を輝かせ、そして周囲の緑をも輝かせるのだ。

 

 「男はさ、この手で花を摘みたいと思うものさ。」

 

 戻ってポツリとこぼしたソンジュンに、ヨンハがしたり顔で言った。

 

 「お前の例えは中々に的を射ているよ、カラン。チョソンはまず手に入れにくい。妓生とはいえ高嶺の花だ。ハ・インスの妹は、ハ家という名がなければどうにもならない。ユニお姉様は簡単に摘めそうに思うだろ?だが野の花の根というものは案外しっかりと土に張っていて茎も葉も強い。こちらの手が切れることもあるという。で・・・お父上にユニお姉様に岡惚れしてます~って話はできたのかい?」

 

 真面目に答えていたと思えば、すぐに茶化す。そんなことができていれば一番に報告するに決まっているのに。

 

 「・・・本日はハ家との縁談を無しにすることで精いっぱいでしたよ・・・それ以上の話などできはしません。」

 

 ユンシクはくうくうと寝ている。連日の試験と、試験にもかかわらず定量をこなす筆写の仕事に疲れ果てているのだ。その寝顔を見ながら、中二坊の隅っこで三人はこそこそと話をしていた。

 

 「だが、てめえの父親がハ・インス親子へのお前が持つ印象をはっきり否定しなかったのが引っかかるな。もしかしたら、これから老論の中での勢力図が変わってくるんじゃねえか。」

 

 黙って聞いていたジェシンが首をひねりながら言った。

 

 「そうなったら・・・というかもし、お前の家がハ家と距離を取るようになったとすれば、ハ家からすればお前が縁談を拒否したことがきっかけだと思うだろうな。時期的にそうなんだから。なら、その原因をさぐったりしねえか。」

 

 「俺が気に入らないから、でいいんじゃないですか。」

 

 「だがそれを父親が受け入れたってことだろ。ならば父親の方も何か含みがあると思うだろうが。そうなったら痛くない腹も探られる。勿論・・・俺らも、それからシクもだ。そうなったら結局はユニ殿に行きつく・・・。」

 

 執拗、父と話をしたときに出た言葉が浮かんだ。そうなのだ。今の立ち位置にしがみつき、更に上を目指すためにイ家の力が必要だからそこ縁談が起こっていたのだ。その一つの方策が絶たれたとき、すっぱり諦めるか。それにそれをきっかけに両家の関係性が変わったと感じれば、背後を探るはず。誰が両家の間に亀裂を入れたのか。ソンジュンからすれば、最初からハ家との絆などないも同然だが、あちらはそう思っていないだろう。

 

 俺はどうすればいい。

 

 ソンジュンはハ家との縁談を断り切ったという気持ちがしぼんでいくのを感じていた。

 

 

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