路傍の花 その58 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ありがとう、とユンシクは呼びかけに答えた。それ以上言わなくても分かる、そんな気持ちが沢山こめられた、柔らかな声だった。

 

 「僕はね、こうやって今・・・ソンジュンやコロ先輩が言おうとしてくれたように、共にいてくれる人たちが出来た。今回のことも本当に・・・本,

当に皆がいてくれなかったら泣き寝入りどころじゃなかったかもしれない。でもヨリム先輩も含めて、僕が今仲間に恵まれているのは、姉上のおかげでしかないんだ。僕の力で・・・僕は仲間を手に入れる事すらできていない。僕のこの体も精神も、全部全部・・・姉上のおかげ。そんな柔な僕が、気持ち一つで掌議に言ったように生きて行けるか、そう考えながら成均館に戻ってきたんだよ。」

 

 皆知り合ったのはユニとの方が先だった。茶店で彼女に惹かれたソンジュン。噂で知っていたうえでユニを助けなければならない場面に出くわしたジェシン。ジェシンのお供でユニに出会ったヨンハ。ユニが存在していたからこそ、確かに三人とユンシクは出会い、親しくなることができた。だがそれは。

 

 「きっかけに過ぎない、シク。」

 

 とジェシンが言ってどさりと体を仰向けに倒した。布団も蹴飛ばして大の字になるものだから、手がユンシクの腹の上に載ってしまった。けれど布団越しのその手は載せられたまま離れてはいかなかった。

 

 「そう。きっかけだよ、ユンシク。出会ったからといって誰もが親友になるわけじゃない。」

 

 自分だって聖人君子じゃない。相手にとって気に入らないところだって多くあるだろう。けれどそれを超える好意は、仲間意識は、人が介在して出来上がるものではない。当人たちの意志だ。ユンシクは出会った後、自分の人柄でその努力の才で、皆を魅了したのだ。仲間で居たいと思わせたのだ。ユンシクが勝ち取った仲間なのだ。

 

 「コロ先輩の手、あったかいね。お腹があったまってきたから僕眠くなった。」

 

 「おお、寝ろ。俺も寝る。」

 

 「お休み、ユンシク、おやすみなさい、コロ先輩。」

 

 「お休み、ソンジュン、おやすみなさい、サヨン。」

 

 「おお、さっさと寝ろ。」

 

 少し鼻をすすった音がしたけれど、それはすぐに聞こえなくなった。中二坊の夜は、静かに更けていった。

 

 

 ユンシクは、成均館に入ってから筆写の仕事を小出しに請け負うようになっていた。数日に一度、納品し、新たな仕事を貰ってくる。仕事のため貸本屋に出入りする日、ユンシクは茶店に行く習慣が出来た。ユニの顔を見、叔父叔母に挨拶し、そして異変がないかを確かめるためだ。この外出にはお供がいる。一人だけの時もあるが、最大三人の時もある。お供の頻度が一番多いのがジェシン、次がソンジュン。ヨンハは家業での呼び出しが多いので最も少ない。ソンジュンは博士や大司政に呼び止められることが時に在り、こればかりは断れないのだ。

 

 「ユンシク!ジェシン様も。」

 

 その日もユニは茶店で笑顔だった。成均館の午後の講義を終え、貸本屋に回ってからの訪問だから、茶店はほぼ店じまいの時間だ。床几の上を拭いて回っている客のほとんどいない茶店で、ユニは元気に立ち働いている。

 

 立ち話をする姉弟を、ジェシンは少し離れて眺めていた。よく似た容貌の二人は、見ているだけでそこがほのかに光っている気がした。ほのかにだ。ジェシンには、この姉弟と共にいる未来が当然の結末のように思えていた。勿論強引にはできない。でもできるのなら、共に働けるだろうユンシクだけでなく、ユニの存在も傍に居てほしいと思っていた。

 

 ハ・インスとの対峙で分かったのだ。憎むべき存在のハ家。それでも、内々の和睦を結ぶことをユニのために願った叔父とユンシクは、それからは一言もハ家に対する愚痴を言わなかった。逆に、加害者であるハ家の子息インスの方が憎しみをあらわにしていた。なのに、ユニだって笑顔でいる。

 

 「日照りにあっても、雨に流され風に折られそうになっても、踏みつぶされそうになっても、又茎をのばし花を咲かせようとする、道端の小さな名もない花、というところだな。」

 

 仲間内ではユニへのそんな思いを隠しもしないジェシンに、ソンジュンは少々焦っていた。まだひよっこ儒生であるジェシンにも何もできないとは分かっていても、更に年下である自分にはもっと無理だと思うからだ。それに、ソンジュンは父親に何もまだ言う勇気がなかった。

 

 だが、次にユンシクと一緒に茶店に行ったとき、ソンジュンに声をかける者がそこにいた。

 

 ハ家の令嬢、ヒョウンだった。

 

 

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