路傍の花 その57 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 次の日、ユンシクは何事もなかったかのように講義に出て勉学に勤しみ、徐々に増えてきた親しい儒生と軽口を交わし、ソンジュンと連れ立って関連書籍を探すことに精を出し、中二坊で筆写の仕事を熱心に行う日常に戻っていた。ハ・インスの姿はその日見られなかった。朝から屋敷に所用があって戻ったと西斎の方から話は漏れてきたが、関係ないとばかりにソンジュンたちは無視をしていた。

 

 ただ、ユンシクは講義の後、夕餉も終わってから一度外出した。これは一人で茶店に向かったのだ。姉ユニの様子を見に。そして叔父にことの顛末を報告しに行ったのだろう。詳しくはまた改めてジェシン達の口からも知らせるとユンシクには言ってあったが、それでも早くの解決を知らせたいと、ユンシク言った。それだけが日常とは違う事。就寝時間の前にユンシクはちゃんと帰ってきて、在室の点呼も無事に受けた。

 

 その日は皆でそろって床に就いた。前日も夜更けまでごたごたしていたから、いい加減眠るべきだった。執事を成均館から連れ出した後解放し、自分たちもようやく東斎に戻ったのだ。神経がどこか高揚していて、なかなか眠りが訪れなかったのは四人共同じらしい。起寝の合図が鳴らされたときに、その合図の前にいつもなら目覚めて本を読む習慣のあるソンジュンさえ、ようやく起床したぐらいだった。

 

 「・・・ユニ様はどんなご様子だったかい?」

 

 それでもソンジュンは聴いてしまった。ジェシンも目覚めているのはまるわかりだった。ユンシクを真ん中にして川の字に横たわり、ジェシンはこちらに背を向けて寝転がっている。だが、気配は起きていた。

 

 「いつも通り働いていたそうだよ。」」

 

ユンシクの答えは軽く、明快だった。

 

 「はあ?」

 

 ジェシンがごろりとユンシクの方に体を回転させた。肘をついて上半身をむっくりと起き上がらせている。

 

 「うん?姉上でしょ?今日も茶店で元気に働いてたって言ってたよ。」

 

 ユンシクはぺたんと床の上にあおむけになって布団をかぶり、天井を向いたままだ。ソンジュンもジェシンではないが、思わずユンシクの方に体を傾けてしまった。

 

 「昨日の今日だぞ。心乱れておられるだろうが!」

 

 さすがに声量は押さえているが、いらだった強い口調でジェシンがなじるように言った。

 

 「別に叔父上伯母上が働けって言ったわけじゃないよ。伯母上は家で休んでいなさいって言ってくれたみたいなんだけど、体を動かして立ち働いている方が、余計なことを考えずに済みますって、聞かないんだって。それに、昨日助けてくれたアジョシ達が来てくれたら、お礼を言わないと、って。それでいつも通りの一日を送ったそうだよ。」

 

 ユンシクは淡々と言い、僕も、と続けた。

 

 「本当は今日、朝から姉上の傍に居て差し上げた方がいいのだろうか、と考えたんだ。でもね・・・もし僕だったら、と想像してみた。僕が姉上なら、と周りを見渡してみたんだ。心配してくださっている叔父上叔母上に泣き顔を見せてばかりいられるだろうか。茶店のお客に、どうしたのかと様子を尋ねられるような休み方をしてしまったら、とか。何よりも、家にいる安心感に頼ってしまって、外に出られなくなったら、とか。理由はいくつでも思いついたよ。僕も同じだったから。姉上の所に行って、二人で自分たちの不幸を嘆き合うだけの一日を過ごすことが僕のために、姉上のためになるのか。僕は何をすれば・・・。」

 

 ユンシクは初めて声を詰まらせた。ソンジュンとジェシンは口を挟むことなくユンシクが口を開くのを静かに待っていた。部屋は灯りを落として暗い。けれどユンシクの息遣いが、ユンシクの心の乱れを少しずつ落ち着かせていくのが分かる。

 

 ユンシクは大きく最後に息を吐くと、元の声音に戻っていた。

 

 「掌議に言ったこと、それは大げさでも格好をつけたわけでもないんだ。僕は正しいやり方で力をつける。学び、正規の試験を受けて、堂々と地位を得る。誰にも後ろ指をさされることのない、自らの立場を手に入れることが、姉上を守ることになる。叔父上叔母上にご恩を返すことになる。母上を安心させることができる。確かに学問をそのために頑張るのは僕だ。それは必ずやり遂げる。だけどね。」

 

 「ユンシク」、「シク」、と同時に二人はユンシクに呼び掛けていた。

 

 

 

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