路傍の花 その51 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 その夜、正面の大門は閉まるが、横手から入る門は常に空いているとすっかり成均館に慣れてしまったジェシンの先導で、四人は狐面のハ家の執事を連れて成均館に戻ってきた。すでに遅い時間で、表面的には成均館は寝静まっているように見えた。だが、若者たちが集う学問の場、宵っ張りの者は多い。勉学で起きている者も、友と話がはずんで起きている者、表向きは禁止されている酒をこっそり飲んで楽しんでいる者など、よく聞けばそこかしこに動きはある。それでも大体は部屋に引っ込んでいるので、東斎を大回りして避けて西斎のそばまで来、ヨンハがこっそりと西斎の掌議部屋を覗きに行った。

 

 「いる・・・一人で何やらしているぜ・・・。」

 

 戻ってきたヨンハがそう言うと、ソンジュンはすっくと立ちあがった。

 

 「まず俺が一人で行きます。そうですね・・・四半刻したら皆で入ってきてください。」

 

 そう言って、ソンジュンはまっすぐに掌議部屋に向かった。

 

 

 「おや・・・イ・ソンジュン。ようやく西斎に移る気になったのか。あんな貧乏人とつるんでいても何の得にもならないと、やっと気づいたのだな。」

 

 成均館に入ったのは半年と違わないのに、すっかり実力者気取りの態度を手に入れているハ・インスは、掌議部屋の椅子にどっかりと座ってソンジュンを迎えた。ソンジュンは座りもせず入り口近くで立ち、じっとインスを見つめてから口を開いた。

 

 「得になるかどうかは友人選びの理由にはなりません。あなたとは考え方が違うんでしょうね、西掌議。ですからこちらに移ることはないです。今の部屋は大層居心地が良いですから。友もいるし、先輩もいる。」

 

 「ムン・ジェシンを評価するなんて、どうかしているのではないか?君はあいつに壮元を譲ったことはないだろう?」

 

 「ええ。けれど西掌議はコロ先輩にも勝ったことがないですよね。」

 

 ハ・インスがぐ、と言葉に詰まったのが分かった。ソンジュンが成均館に入ってから、行われる試験の壮元、次席は常に決まった名が並んでいた。ソンジュンとジェシンだった。それをあてこすったつもりが、自分の成績の至らなさを暴露する羽目になったのだ。

 

 「こちらに移る報告でないとするなら、何の用なのだ、こんな夜更けに。」

 

 今度は非難するような声音のハ・インスに、ソンジュンは表情を変えずに言った。

 

 「こんな夜更けでなければおそらく困るのはあなたです、西掌議。」

 

 掬い上げるような目つきでにらむハ・インスに、ソンジュンは落ち着いた声で話し始めた。

 

 「今日、不審な行動をする男を捕まえたと知らせがあり、キム・ユンシクの叔父の店に駆け付けたところ、俺の知っている顔がそこにありました・・・。」

 

 

 

 ソンジュンは本当に怒っていた。男にハ・インスの前でインスの父親の行状を証言させることを約束させ、夜まで時間があるからということで、対策をさらに練るために店に残らせてもらうことにした。では、ユニは家に帰します、という叔父に頼んでユニに一目会わせてもらったソンジュンたち三人は、泣き腫らしたユニを見てしまったのだ。叔母に肩を抱かれて、ユニはぼうっとしていた。ユンシクが優しくさする手首には握られた手の型が残っていて、赤くなっていた。

 

 「俺たちも一緒に家にお送りしましょう。」

 

 そう言ったのはジェシンだった。叔母は遠慮したが、それでも力の抜けたユニの体を支える自信はなかったのだろう、結局頷いて、ジェシンが負ぶった。ユンシクが負ぶおうとしたが、ちょっぴり、いやだいぶ危なっかしかったのだ。ヨンハも力はなさそうだった。ソンジュンとジェシンは互いに視線でさぐり合ったが、結局は体格を観察した叔母がジェシンを名指しで指名したのだ。歩けます、とユニは言ったが、無理なのは全員一致の意見だったので、最終的にはユニ本人もすんなりジェシンの背に乗った。ジェシンの肩に顔をうずめるようにしていたユニ。戻る道で、ジェシンが何かをため込んでいるように見えたが、それは店に戻って車座になった時に分かった。

 

 「ユニ殿は・・・呟いておられた・・・。『女であることがこんなに・・・こんなに理不尽なことだなんて』と。体はずっと・・・震えておられた。」

 

 ユニの悲しみを背中で感じてしまったジェシンの腹は煮えくり返っていたのだろう。それはソンジュンとて同じだった。

 

 

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