㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ぎゃあ~~
とヨンハが叫び声を上げたのはちょっと面白かったが、その拍子に同じように叫び声をあげて顔を上げた狐面の男に、ソンジュンはずいっと迫った。
「俺が誰だか分かるな?」
いえ、あの、その、うわ~~俺の腕や胸はやわらかい女の子を抱くためにあるんだぞ~~、そのこれはですね、じつは、何すんだよ~コロ!よけなくったっていいだろ~~、訳がありましてあのイ家の若様このことは、どうすんだよ~~こいつに抱き着いたのも嫌だけど、こいつじゃなかったら柱に激突してたじゃないかよ~~、あのちょっとした誤解でして、この女の子に好まれる顔に傷でもついたらどうするんだよ~~もてなくなるだろ~~
「うるせえんだよてめえは!」
狐面の執事と、執事から飛びのいたヨンハがジェシンに叫ぶ文句が重なって、とうとうジェシンがヨンハを突き飛ばした。見もせずに。ジェシンはソンジュンに己の正体を知られたことを察して、必死に言い訳しようとしている執事を睨み続けていたのだ。
「俺もお前を知っている。ハ大監の執事殿だ。いつも我が屋敷に大監が来られるとき、お前が付き従って来ていたからね。」
「わ・・・若様、ちち違うんです。これは、ちょっとした間違いで、あの、その・・・。」
「何が間違いだというんだね。怖い思いをされた娘ごが実際にいて、その娘ごを助けた人たちがおられる上に、お前はつかまっている。御主人、ユニ様を助けてくださった方々は存じよりの方たちですよね。」
「はい。うちの店の常連客で、名も、住まいも皆知り合っている長年の付き合いのある人たちばかりですよ。ユニのことも自分の娘のようにかわいがってくれていまして、大層怒った状態でこの人を連れてきました。」
すると男は急にわめきだした。
「あいつら!身分違いのくせに俺を殴りやがって!俺はこれでも両班の端くれだ!今度会ったらめにものみせて・・・。」
「お前がやったことは、身分違いどころじゃねえ・・・分かってんのか、てめえはよ・・・。」
ジェシンが唸るように言うと、それを抑えるようにまたユニの叔父が口を開いた。
「あの人たちは、訴えるのならどこにでも出て証言してやると言ってくれてますよ。」
「どどどどこに訴えるというのだ?!」
「あなたが仕えているお屋敷にですよ。儂があなたを覚えていないとでも思っているんですか。あなたは南山谷村のキム家で、あなたの主人に従い、ユニを連れ去ろうとし、儂が渡した金を拾い集めて帰って行ったんだ。一生忘れるものかと思っていたあんたの顔・・・こんな形でまた見ることになるなんて・・・。」
ユニの叔父の声は怒りなのかくやしさなのか哀しみなのか、いずれにせよブルブルと震えていた。
「や・・・やめてくれ。やめてください・・・。首になってしまう・・・。」
「首の心配する前に・・・俺に殴り殺される心配でもしたらどうだ・・・。」
ぎりぎりと歯を食いしばるような顔をしたジェシンが唸ると、動けないのに男は後退ろうともがいた。
「・・・どちらにしろ、お前にはお前がハ大監様に付き従って見聞きしたことに関しての証人になってもらう。以前キム家に対してしたことを、ある人の前で証言してもらおう。そうしたら、今回のことは大監様のご要望を先読みしすぎて見つかってしまった、と言ってやらなくもない。」
「てめえ、そんな甘っちょろい・・・!」
「まあまあコロ、ちょっと待てって。」
ソンジュンの言うことにかみついたジェシンを、ヨンハが腕を引いてなだめた。
「それで・・・それで俺はハ家に勤め続けられますか、イ家の若様?!」
「多分ね。」
無表情で言ったソンジュンは、さて、とヨンハとジェシンを見まわした。
「西掌議と話し合いをするには、どこが最も適当でしょうか。」
無言のジェシンの横で、ヨンハが一瞬考えて、にっこりと笑った。
「あいつ、西斎で偉そうに掌議部屋を独り占めしてるぜ。夜中まで一人で何か企んでんだよ。人目を忍んで、そこにこいつを連れ込もう。あいつを動かすよりこっちから行った方が早い。」
其れには賛成らしく、そっぽを向いたジェシンの様子を確認してから、ソンジュンは男を見た。ガタガタと震えだした男を、ジェシンではないが殴りつけたい思いで、ソンジュンは思い切りにらみつけた。