㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
まだ怒りが収まらないようなジェシンをなだめながら、
「話が聴きたいね、イ・ソンジュン君。」
とヨンハが笑った。てめえ何笑ってやがるとジェシンは馴れ馴れしく肩に置かれた手を振り払っていたが、怒鳴りはしなかった。ユニが近づいてきたのが見えたせいだ。
「あの・・・本当にありがとう存じます。ユンシクが酷いけがをせずにここに来ることができたのは、お二人のおかげだわ・・・。」
ソンジュンは思わず立ち上がって、黙って首を振った。当たり前のことをしただけだ。ユンシクはソンジュンが友人になれたと思っている大事な人だ。彼が危険な目にあっていたら、助けるのは当たり前のことなのだから、礼など言われても困る。けれどそれをうまく口には出せなかった。だがユニにはわかったのだろう。にっこりとほほ笑んでくれた。
「スンドリさんが、叔父の家まで背負ってくださるとおっしゃるのですけれど、ご帰宅の時間がおありでしょう?」
ユニはそれを言いに来てくれたようだった。ユニが今住み暮らす叔父の家は近いし、ゆっくり歩いていけばいいからスンドリを連れて帰れと言いたいのだ。だが、ソンジュンはスンドリを使ってくれとユニに言った。
「近いのなら余計にスンドリに背負わせればいいです。あいつは力が強いので、安心しておぶさっていられると思います。俺はここで待たせてもらいますから。」
「でも。」
「いいんです。今日はユンシク君に会えるかと思って・・・屋敷に戻る時間はいつもより遅いと言い置いてきています。」
もうユンシクと会っていたことを隠す意味はなくなった。あれだけ友人友人と主張してしまったのだ。ユニにだって聞こえていただろう。ユンシクは今夜そのことについてユニに問いただされるかもしれないが、ソンジュンと友人になっていることが悪いことなどではないのだから、筆写の仕事の頻度については叱られるかもしれないが、友情に関して叱られることはないはずだ。
「ユニや。お言葉に甘えてユンシクを運んでもらいなさい。一時でも早く床に入れてやったらいい。お前も傍についていておやり。」
若様方には儂がちゃんとお礼を申し上げているから、と叔父に促され、ソンジュンと、そしてユンシクのために怒ってくれたジェシンとヨンハに、ユニはきれいに会釈をして、本当にありがとう、ともう一度言い残し、ユンシクの元に戻っていった。まるでユニたちの従者のように、頬を冷やす手拭いを濡らすための水の入った手桶を持って仁王立ちしているスンドリに一言二言言うと、ユンシクをスンドリの背につかまらせて負ぶってもらった。ユニが先導して店から出ていく姿を見送ると、叔母は厨に戻っていき、黙って座っている叔父とソンジュンたちに熱いお茶を入れてきてくれた。
「坊ちゃん方、本当に家は近いですので、スンドリさんはすぐにお戻りになりますけれど、少しのどを潤してくださいね。」
スンドリさんにも何か、とまた厨に戻る叔母の背を見送って、四人は茶を飲んだ。美味かった。怒鳴り合って興奮して、喉はからからに乾いていたらしい。
「ソンジュン殿、とおっしゃったか・・・。先ほどの話ですが、騒ぎは大きくしないでいただけるとありがたいのです。ユニを・・・ユニを騙して連れていこうとした両班は老論の人でした。あの子のことを、その方の耳に入れたくないのですよ。」
私はキム家の籍は抜けてはいないので、と叔父はうつむく。
「一応両班ではあるんです。だが、こうやって商売を生業として生き、自分が両班であることはわざわざ言ってはいないのです。妻は儂と身分が違うといつまでも気にしていました。今もでしょう。でも妻と共に生きると決めたのは儂自身で、それに後悔はしていない。けれど両班の身分を手放す勇気はなかったのです。生業も、立場も、あの子を守ってやるには全く間に合わない、中途半端な両班の男。ただ、世間知だけであの子を守らねばならない。ただ、大きな力がどんと来てしまったら、儂の知恵だけでは守ってやれないかもしれないと、そればかりが悔しいのですが・・・。」
「よくわかりますよ。で、イ・ソンジュン君。君はどうするつもりなんだ?店主殿のお話を聞いたうえで、どう考えているんだい?」
試すようなヨンハの声が響いた。