㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
大人の動きは速かった。医師を呼ぼうかといったヨンハは少しばかり大人に近いかもしれない精神構造を持っているが、必要なことをさっさと行動に移すことは、自らの判断で動ける大人には叶わなかった。ユニとユンシクの叔父夫婦は、叔母がユンシクの頬を冷やし、体のけがを確かめている間に、叔父がどこかに走って行き、すぐに戻ってきた。どうやら近くの乾物問屋に、ユニの実家のある村の者が品を届けに不定期に来るらしく、今日はどうかと確認しに行ってくれたのだ。幸いにもいたので、ユンシクが少しけがをしたので一晩預かるという知らせを実家の母親に言伝してきたと、膝に手を当ててユニに伝え、
「今日は儂と一緒に休んで、明日戻りなさい。」
とユンシクに言い聞かせてくれた。ユニは勿論、落ち着いたとはいえさっきまで息の荒かったユンシクを歩かせたくはなかっただろうし、隣でこくこくと頷いていた。その手はまだユンシクの背中をさすり続けている。
「少し・・・話をお聞かせ願えませんか。」
お礼を申し上げるよ、とユンシクには言って、叔父はソンジュンを彼らの傍から離した。なぜか当然のようにジェシンとヨンハも付いてきたが、それにはとんじゃくせず、叔父は床几に三人とともに座り、ソンジュンにことの次第を教えてくれと頼んできた。
この時、初めてソンジュンたちはユニがなぜこの茶店の叔父夫婦の下に引き取られているかを知ったのだ。
ユンシクが殴られたのは初めてではないという。ユニが借金のかたのように両班の男の花妻にされそうになった時、ユンシクは必死に病の床から抜け出し、姉の前に立ちはだかったのだという。叔父が家の中に飛び込んだ時、ユンシクは殴り飛ばされて倒れ、ユニは腕を掴まれていたのだ。
「その時のことを思いだしました・・・多分ユンシクも頬を打たれた痛みよりも、その時の絶望を思い出して息が・・・詰まったのでしょう。」
ユンシクの不調をそう見た叔父の説明に、ソンジュンたちは納得すると同時に怒りが膨れ上がった。少年らしい潔癖さというべきか。自分たちにとって親しいと思っている関係の人たちがあった理不尽に、目が回るような怒りが沸き上がったのだ。
「イ・ソンジュン、てめえ、あいつを殴った奴を見たんだろ?」
「見たというか・・・逃げてきたキム・ユンシクを追ってきました。スンドリと俺がいて、追い払ったというか・・・。」
「市のチンピラか?そうだったら風貌を言ってくれたら俺の店の者に探させる。」
「チンピラ・・・ではありません。俺の知り人でした。」
ジェシンとヨンハの表情がさらに険しくなった。ユニの叔父は膝の上で拳を握りしめている。
「知り人・・・?じゃあ誰か分かるんだな、言え。」
「・・・いえません。」
「あ?なんだてめえ、かばう気か、その『知り人』ってのをよ。ああ、お前の『知り人』だから老論の奴か!『お友達』ってやつだな。」
「違いますよ、かばうつもりなぞかけらもない。俺の友人はキム・ユンシクです。あいつらはただ知っているだけだ。」
「じゃあ言えよ。ユニ殿の弟と同じ目にあわせてやる。」
「言えません。キム・ユンシクは俺の友人だ!あんたには関係ないでしょう、ムン・ジェシン殿?!」
「関係も何もあるもんか!知っている人の弟だ!黙ってるわけにはいかねえんだよ!」
「だから!俺が相手と話をつけます!黙っていてください!」
「お前ら老論の話の付け方なんて信用ならねえんだよ!」
お互いにつかみかからんばかりになったところで、まあまあまあとヨンハが間に入った。ユンシクの叔父も、落ち着いてください、と二人をなだめにかかる。
「さっき言ったように、言いがかりをつけて人を殴るような奴らです。そんな頭の足りない奴らを殴ったって意味がないです。あいつらがユンシクを下に見ているのは、その境遇だけ。頭の悪い人たちだし、正直、老論の中でだって大した勢力のある家の子息じゃあなあい。」
ソンジュンがジェシンをまっすぐ見て言った言葉にヨンハがひゅう、と口笛を吹いた。
「俺は俺の立場であいつらに仕返しをする。それに、ユンシクにだってできる仕返しがある。それをあんたが殴るだけで終わらせてもらいたくないんですよ、ムン・ジェシン。」
またヨンハがひゅうと口笛を鳴らした。