ある作家のネタ帳 その26 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「今頃さ、しっぽりやってるだろうかねえ。」

 

 機嫌のよさげな顔で、ヨンハは大きな独り言を言いながらばくりと握り飯を食べた。官吏は忙しい仕事で、昼飯の時間など自分で都合して作らなければくいっぱぐれるし、外に食いに行く時間などない。皆弁当を持参している。偉くなれば、というか上の地位にいる者は元から権力も金もある大きな家柄のものがほとんどで、大体昼時になったら屋敷の者が昼餉を届けてくる。出世するのが見込まれている花の四人衆だってまだまだ若造で、昼餉は持参組だ。そして昼を食おうと人の都合などは関係なく誘いに来るヨンハのおかげで、くいっぱぐれることは少ない。仕事人間のユンシクとソンジュンは、そういう切り替えの上手なヨンハによく助けられていると言っていい。

 

 いい天気なので王宮の庭の隅で弁当をつついていた三人。今日はジェシンが非番で休みなのだが。うららかに大きな独り言を言ったヨンハに、ユンシクは怪訝な顔をし、ソンジュンは一瞬ユンシクと同じような表情を浮かべたものの、すぐに納得いった顔になって少し笑んだ。

 

 「テムルのところに行っているのは確かでしょうからね・・・彼女の『話したいこと』と俺たちの差し金のお気づきなら、まあ・・・頑張らないといけないんじゃないですか?」

 

 「お?お前も焚きつけたのか、カラン?」

 

 「そんな親切なことはしませんよ・・・ただ深刻そうな顔で、『テムルが話したいことがあるらしいですよ』って教えただけですけど。」

 

 「わはは!俺もさあ『テムルが大事な話があるんだって』って言っといた!後は自力で何とかしろって話だよな!」

 

 きょろきょろと二人の会話の間で首を振るユンシクを見てヨンハはにやりと笑い、お前が俺に言ったんだろうが~、と絡んだ。

 

 「テムルがさ、誰のことを一番信頼し、頼り、傍に居てほしいと思ってるか、なんて、俺たちはたぶんずっと知ってたんだよ。だけどテムルの自覚がないのをいいことに先延ばしにしたんだ・・・さっさと俺たちが自分に引導を渡せばよかったんだ。」

 

 「え・・・俺は知りませんでしたよ。」

 

 「まあな。俺もちょっとは付け入るスキがあるぐらいにはテムルに頼られてるという自信があったからな、似たようなもんだ。」

 

 え、あの、と慌てるユンシクに、まあ飯を食おう、と笑って、ヨンハは干し肉を柔らかく煮戻したおかずを口に放り込んだ。ソンジュンもおかずの少ないあっさりとした弁当箱をほとんど空にしているのを見て、ユンシクは残りの握り飯に必死にかぶりついた。

 

 

 「薄々はさ、気づいてた。テムルはコロが特別だった。男だの女だのを超えて、あいつにとってコロは『サヨン』だった。たった一人の。俺だってサヨン(先輩)だぜ・・・だけどあいつが呼ぶ『サヨン』はただ一人だ。誰も間違えなかったよ、成均館の時・・・。ためらいなく縋り付く相手はコロだった。人として、二人は特別に・・・つながってた。」

 

 「そうですね・・・俺は先日テムルのところに行ったとき、思い知らされました。次に書く話の内容について思い出話になった時、彼女は一旦です。『私たち』って・・・。勿論彼女とコロ先輩の事ですよ・・・。当たり前のように。彼女は無意識にでしょう・・・。だけどそうか、と思いました。彼女にとって、コロ先輩と彼女をひとくくりにすることはこんなに抵抗のないものなのだと。コロ先輩は、彼女の中に大きな位置を占めているのだと。それぐらい成均館の時からの『サヨン』の存在は彼女に植え付けられているのだと。俺は・・・万が一俺が彼女の傍に居ることが出来るようになったとしても、彼女の胸の中の『サヨン』を感じながらは落ち着いてはいられないでしょう。」

 

 だからさ、とヨンハは快活に笑った。ソンジュンもほほ笑んでいる。

 

 「コロにテムルのところに急いでいくように思わせぶりを言った。あとは自力で何とかするだろ。俺よりも女を口説くのは 上手いだろ。」

 

 「え?ヨリム先輩は女人など簡単に・・・。」

 

 ソンジュンが意外そうに聞き返すと、ヨンハはまた大笑いした。

 

 「誰がいちばん腹の中に言葉を溜めていると思う?コロに決まってるだろ?あいつの腹の中には、テムルに捧げる言葉が詰まってるんだよ・・・ああヤダヤダ詩人なんて!俺にちょっとその才能を分けてくれたら、俺は妓楼街の主になれるってのにさ!」

 

 

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