㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
王宮の庭でそんな話の種にされているとも思わず、ジェシンはユニを引き寄せ膝に抱き、耳元でささやきを落とし続けた。ユニはもう抵抗もせず大人しくジェシンにもたれ、さすがに顔は胸から上げさせてもらえたが、横抱きに座らされたまま、次の作品に書こうとしている成均館時代の出来事を箇条書きにした紙を持たされていた。一つ一つ指をさすジェシンに、この時は、とその時のユニの想いを問いただされていた。日誌には事実、起こった事柄しか書いていない。箇条書きだってそうだ。けれど確認だ、とジェシンは許してくれなかった。
思い知らされたのは、ジェシンがユニが思うより深くユニのことを想ってくれていること。そして同時に、ジェシンがユニが思うより・・・情熱をたぎらせている男だったということだ。
ジェシンが漢詩の上手だとは知っていた。成均館時代に、周囲から書くことを望まれるほどにその才は知られていて、初めて見せられたその作品を、ジェシンはユニにくれた。目の前で、それこそ筆を持つ腕だけを動かして、望まれてすぐ、瞬く間に認められたその詩は、今もユニの手元にある。ユニにくれたのはハングルで書き直したもので、自分たちの言葉で書いたものが本物だ、本当の気持ちのこもった詩になる、と教えてくれたのもジェシンだ。漢字で書くのは教養の一つで、それだってジェシンは素晴らしい構成を詩に与え、同年代の者たちの追随を許さないとユニは聞いた。博士の中には、ジェシンは名文家だ、と断言するものもいたぐらいだ。
そのジェシンの内に秘められている情熱を、詩の出来不出来に惑わされる凡人のユニは見誤っていたのだ、と思い知らされた。ジェシンは上手いから詩を書くのではないのだ。想いがあるから、その発露が詩なのだ、ジェシンにとって。
出会いの場面。中二坊で対面したユニとジェシン、その部分を指さし、ジェシンは聞いた。どう思った、初対面の俺のことを。ユニは答えた。大きな人でビックリしたし怖かったけど、あっさりと自己紹介してくれて安心したのよ。なのにイ・ソンジュンが来たとたん喧嘩になるから、それから一晩、怯え切ってたんだから。するとジェシンは笑った。相変わらず耳元で低く囁く。そりゃ悪かったよ。カランとの喧嘩は必要なことだったんだ、許してくれよ怖がらせたことはよ・・・だがな、キム・ユニ。俺は同室を申し込んできた相手は、それまで皆最初っから追い出す気で威嚇してたんだ。けど、お前を見たとたん、そんな気は失せて、置いてやらねえと、と思ったんだ。まるで迷い子猫を拾ったかのようだった、俺が引き受けなきゃこいつは凍えてしまう、そう思った・・・。自分が歩くべき道も見つけられてねえ半端な俺がよ、お前を導いてやらないと、なんて思ったんだ。
手射礼の日、ジェシンは開始ぎりぎりにユニたちに合流した。諦めかけたのよ、とユニは呟いた。弓で、部屋ごとの的中勝負だった。それに負ければ成均館を去るよう、ユニは掌議に迫られていた。勝負を受けて立ったのは意地だけだったユニ。弓を触ったこともない娘の身で無謀だったが、両班の子息キム・ユンシクとしては受けるしかなかった。最後の最後まで参加に頷かなかったジェシンを、それでも信じてた、とユニはジェシンに体を預けたまま告げた。おう、と嬉しそうに答えたジェシンは、あの日、わき腹を負傷していたのだと初めて白状した。
だがな、お前の頼みをきかなきゃならない、なんて何日も前から決めてたんだ。だから一人で手当てをして、止血して、着替えて、ってしてたらよ、ちょっと時間を食っちまった。だが、お前が待ってると思ったら、手も体も動いた・・・普段の俺なら全部投げ出しているところだった。お前の必死に弓を引く姿がよ、俺を動かしたんだ・・・全部がお前だ、お前のことを想うと、俺は何でもできたんだ、あの頃から。
ユニの耳元に、詩人の情熱が吹き込まれていく。まるで同じ炎を燃え上がらせようとするかのように。