㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
知っているか、キム・ユニ。男が女の夢をかなえてやりたい、なんて英雄的思考を持つときは、よっぽど女に惚れてる時なんだ。そして惚れてもらいたい時なんだ。そのなりふり構わない行動が後に英雄として詩の題材にもなる。時に破滅することもあるけどな。それは女の欲が大きすぎたか、男が先走りすぎたか、どちらかだ。
なあキム・ユニ。お前の夢はそんな壮大なものか?国中の富が欲しいか、それとも国一国が欲しいか、いや、国を飛び出て隣国で新たな国をつくるか?そうじゃないだろう。お前が見たのは普通の夢だ。安らかな婚儀、生まれる我が子、その子に話して聞かせる民話やおとぎ話。お前が他の娘と違うというのなら、その話して聞かせる話を、お前は自らが筆を執って書きたい、それだけだ。お前の欲は本当にささやかで、かわいらしくて、そして夢がある。その夢が男を破滅させるわけはない。
さて、キム・ユニ。女が男の夢をかなえてやりたい、と思わないわけはないだろ?相手を想う気持ちに男女の違いはない。天は男女を分け、役割を与えと言われているが、男が女の夢をかなえてやりたいと思うのと同じように、惚れた男の夢をかなえたいと思うのは同じだと俺は思う。ここで一つ問題があるんだ、キム・ユニ。
俺はお前の夢をかなえてやりたい、叶えるためにしてやれることは何でもしよう。だが、俺の夢をかなえてくれるだけの想いがお前にあるか、俺はそれによってさっきも言ったように・・・生死が分かれてしまう。このままお前を連れ去って、屋敷に閉じ込めるのも一つの方法だがよ、キム・ユニ。俺はお前の同室生で先輩で仲間で同傍だ、お前の意志を尊重すべきだと分かってるんだ。お前の気持ちを聴く前に、誓っておく。俺はお前の夢をかなえたい、そしてそのために俺が破滅することは決して、決してない。なぜならお前はあの聡明な官吏キム・ユンシクを育てた賢婦で、家に献身的に仕えた健気な娘で、お前がもし俺の願いに頷いてくれるのなら、俺はそんな素晴らしい娘を娶る果報者になるんだ・・・。俺の評判は上り、俺の親父は喜び・・・そして何より、俺が幸せになる。愛しい娘が傍に居ることを誓ってくれるのだからな。俺はお前が傍に居れば勝手に幸せになる。だからお前の夢をかなえるために、お前の夫になりたい。お前のしたいことをさせてやれる、優しい夫になりたい。そう思っている俺を、お前は嫌うか?
耳に注ぎ込まれる言葉を、ユニはジェシンの腕の中で、顔をジェシンの胸にうずめながら聞いていた。さっき掌で確かめていた鼓動の速さを、今片方の耳で直接聞き取っている。どく、どく、と響く音と振動。もう片方の耳にそそがれる低い声は、ユニへの慕情に満ちていて、ジェシンの鼓動と共にユニの全身を浸していく。まるで毒が回るかのように。ジェシンの鼓動がユニのものと合わさって、まるで二人の心の臓が一つになったかのように。
サヨンは知らなかったのだろうか。そうね、私は隠したわ、とユニは目をつむった。男だらけの成均館で、ユニは娘の心を放棄した。そうでないと油断して娘らしさが態度に出てしまうかもしれない。それに、ソンジュンに娘としてのかわいらしさ華やかさを前面に押し出すことのできる令嬢がいることで、自分にはもうそんなことをできる日はこないのだから、とあきらめをつけた。すっかり諦めていたはずなのに、それでももって生まれた女の気持ちは胸の底に渦巻いて時に吹き出そうとしていた。例えば。
誰だったかしら、傷に苦しんでいるのに私を怖がらせるまいと笑った人。洗ったばかりで落ちていたおくれ毛を愛しそうに指に絡めて梳いた人は。私を女に引き戻しかけたのは、その人の気持ちが私に届いていたから。ああ、この人は私に死にそうになっているときでも会いたいのだ、と。それほど私がその人の胸の中に住んでいるのだと。女心を舐めちゃいけないわ、サヨン。私は知っていました。
サヨンが私を愛しく思ってくれていることを。ただ、私がその時男のふりをしていたから、私もその気持ちを流すことができただけなの。もし私が娘のままでいられたら、って思わせたのはサヨン、あなたでした。