メロディ その21 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 次の日、ジェシンは終業後ユニと待ち合わせをした。マスターは店が始まってしまうから、話し合いの内容を報告することにして。さんざんバーのカウンターでストーカー対策をしておいてなんだが、ここまで突っ込んだ話になってくるとそうもいかない。

 

 待ち合わせと言っても、ユニには一旦帰宅してもらったのだ。持ち物がなくなっているのはユニが働いているとき、つまり会社の中。相手がその辺りにいる人物なのだから、帰宅途中をつけられてジェシンと会っているところを見られたら、と思ったからだ。ただ、会社の人間なら自宅住所ぐらいわかるだろうと思いついたのは会う直前だったが。とにかくジェシンはその日バイクで出社し、バイクで数度送っただけのユニの家の近くに向かった。

 

 明るい時間に見るユニの自宅周辺は、実は高級住宅が多いジェシンの実家と比べると、明らかに庶民的だった。ただ、住宅の多い地域だけに、古さはあるが、喧騒はない落ち着いた地域だ。だからジェシンはユニの家のある路地には入らず、大通りで待ち、ユニに出てきてもらうことにしていた。目立ちすぎるからだ。

 

 現れたユニは通勤着のままだった。スキッパー風のブルーのブラウスカットソーに紺色のパンツルック。ピンクベージュのカーデを腕にかけていたのは少し暑い日だったから。バイクにまたがったまま待つジェシンを見て一瞬立ち止まり、そしてきょろきょろと周囲を見回してから苦笑して、傍まで寄ってきた。

 

 「お待たせしてごめんなさい。」

 

 「待ってねえっす。俺もさっきついたところ。」

 

 場所変えますよ、と言ってヘルメットを渡すジェシンに、ユニはまた苦笑して素直に受け取った。

 

 「もう・・・また噂になっちゃう・・・。」

 

 

 噂云々は、ちょっと走ったところにあるカフェの中で聞いた。

 

 元から、時にマスターに送ってもらうことがあったユニは、その度に彼氏ができたと近所の人たちから質問攻めにあうのだそうだ。マスターに関しては、時間が遅いから親切で送ってくれている店のアジョシだ、と説明して納得してもらっているが、マスターが車を買い替えた時なんかにはすぐに噂が再燃する。皆夜遅くなのによく見ているものだと感心していたら、その兆候はユニの高校生の頃からあったのだそうだ。帰りに同級生の男の子と近くまで一緒に帰ってきたりしたら近所のアジュマが大騒ぎでユニの母親に注進しに来た、らしい。ユニはその日その同級生と帰りの方向が同じだと初めて知った、と母親に話していたぐらいの事なのだが。だから。

 

 「バイクで若い男に送ってもらうようになった・・・から彼氏ができたってまた噂されている訳っすね・・・。」

 

 「毎回のことだからいいんだけれど、今日はね、さすがにいつもの歌う日の夜じゃないでしょ・・・見た限りアジュマの姿は見えなかったんだけど、まあ多分・・・どこからかアジュマたちの耳に入ると思うの・・・。」

 

 いっそのこと、とジェシンは言いそうになった。

 

 正直、ジェシンは自分がどうしてこんなにユニのことに首を突っ込むのか、と自問自答はしたのだ。

 

 ピアニストとして臨時とはいえコンビを組むことになったのは偶然だが、その前からジェシンはユニを一方的に知っていた。聴く側として。彼女の歌が好きだった。その彼女の歌を穢しそうな手紙の存在に憤ったのも確かにジェシンの本当の気持ちだった。

 

 だが、それだけじゃないことを、ジェシン自身は本当はわかっていた。

 

 近くにいることを許された今、ジェシンは会うたびにユニの歌声と自分のピアノの旋律がリンクすることに震えを感じるほどの喜びがある。そして、その歌声がバーのフロアに響く前、音を合わせるときに見る彼女の歌に対する真摯な姿勢に、彼女の真面目さを知っていった。何よりもユニは。

 

 美しい人だった。それこそ今更かもしれない。聴く側だった時もきれいな人だと思っていた。だが、ステージに立つ前の、薄い薄いしているかどうかも分からない薄化粧でも、彼女は美しかった。体をほぐすごとにバラ色に染まる頬も、声が通り始めるごとに光を増す瞳も、発声のために息を長く細く吐き出そうと少し尖らす唇も、全部が美しかった。

 

 いっそのこと、俺を彼氏にしてしまいませんか。

 

 そう言いたくなるほどに。

 

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