㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ユニは一度決めると腹が据わる質らしく、一回バイクに乗ってしまうと、次からは怖がらなくなった。遠回りになるのにごめんなさい、とジェシンに礼を言うが、夜の短いツーリングを楽しむことにしたらしい。二度目、三度目は、ライブが終わると、着替えと同時にあっさりと髪を解いて現れるあたり、ジェシンのエスコートに甘えることに決めたのだろう。
おそらく、とジェシンは注意深くユニの様子を見て、マスターにも忠告していた。
手紙を送りつけてくる奴の行動が変わるかもしれない。それも過激な方へ。用心したほうがいい。ユニさんに頻繁に連絡を取りましょう。俺も気を付けて取ります。俺の方にそいつの目が向けばいいが、自分が攻撃しやすい方にその行動が向くとすれば、おそらくか弱いユニさんの方だから。
マスターはそれを聞いて、二日後には本当に小さな防犯カメラを裏口の近くに設置した。そこに郵便受けがあるから。そしてその姿はすぐに映し出された。手紙を投函しているのは午前7時前。さも歩いている途中、通りすがりのように手を伸ばしてぽん、と入れ口に放り込むと、歩みを緩めることなくすたすたと画面から消えた男。
「ジェシン君みたいな奴だったらよかったのにねえ・・・。」
「え・・・俺そんなに悪人面ですか・・・?」
「いやいや、体格とか特徴の問題。ジェシン君みたいに背がすごく高いとかさ、すごく太ってるとかさ、あるじゃん。」
確かに、とジェシンはマスターのタブレットに映る男を眺めた。カメラは小型で、誰の目にもつかないように隠して設置したから遠い場所の撮影のようになっていて、顔がはっきりと見えない。だが、遠めでも分かる。髪型も、体型も普通。大きくもなく小さくもなく、黒髪の短髪。通勤着なのかどうなのか、ジャケットを羽織った、朝なら見かけるサラリーマンの風体。ジェシンだって似たようなものだ。言ってみればモブ。雑踏に紛れてしまえば二度と見つけることのできない、そんな平凡さが画面からも分かる。
手紙は飽きずに毎日入っていた。書いてあることはほとんど変わりなかった。写真も、一番近いライブの日のものもあれば、いつだろう、と思うおそらくちょっと以前のものも入っている。それが続いて、ちょっとばかり熱心過ぎるファンなのか、やりすぎの、と思い始めたとき、それが封筒の中から出てきた。
女物のハンカチ。薄手で、縁が金色に縁どられた花柄。
それをカウンターの中と外で確認したマスターとジェシンは、もう一日様子を見てみた。
次の日、封筒からは細身のボールペンが出てきた。メタリックのきれいなピンク色の。
そしてジェシンは黙ってスマホを取り上げ、ユニにメッセージを送った。
『電話していいですか』
数分後、家に着いています、と返信があったのを見て、ジェシンは通話をタップした。
『こんばんは、ジェシン君。何かありました?今度の曲のこと?』
「曲の方は一通り練習し終わりました。今日は別件・・・ユニさん。」
ジェシンは一旦言葉を切り、そしてズバリ聞いた。
「何か身の回りのものを無くしたりしてませんか、最近、頻繁に。」
するとスマホの向こうで息をのむ雰囲気が伝わってきた。
ビンゴ、と音を出さずに口を動かして見せると、マスターは眉をひそめならうん、と頷いてよこした。
「例えばハンカチ。ブランドは○○〇ス。花柄で黄色が強い。例えばペン。綺麗なピンク色・・・。」
ジェシンが立て続けに言うと、どうして、と言葉に詰まる返事がか細く聞こえる。
「最近だけですか?今も?会社でですか?」
ジェシンが再び続けざまに問うと、ユニはちょっと前から、とぼそぼそと答えた。
「ちょっと前って?」
『一年ぐらい前から・・・』
へ?!と目を剥いたジェシン。今回の手紙事件は、日付的にせいぜい半年だった。いや半年でも毎日のことだと思えばしつこい奴だと思うのに。
『本当に大したものがなくなるわけじゃなくて・・・それこそ机の上に置きっぱなしにしてたハンカチとか、上手く留まらなくて外してペン皿にちょっと置いたヘアピンだとか・・・。』
「ボールペンは?」
『二週間前・・・ぐらい。』
額を押さえたジェシンに、マスターも心配そうな視線を向けた。