『花四箱』と仲間たち その4 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 やつれたウタクには、もう一人連れがいた。粗末な服を着た女だった。もうそこそこの年かと思ったのだが、実際は。

 

 「・・・30歳になったところ・・・。」

 

 ソンジュンやウタクと変わらない年齢なのだが、窶れ、髪も白いものが混じるその風貌は中年のものだった。元は。

 

 「・・・愛くるしかったのだ・・・俺の実家の近くの小作の娘なんだよ・・・俺が小科を受けるために書院に入るころは、赤子の弟を背負って母親の手伝いをしていたのを覚えてる・・・。」

 

 女は顔をうつむけ、ぺたりとソンジュンの招き入れた書斎の隅に座り込んでいた。

 

 ウタクによると、ここ最近、今の花妻にしている少女とその前の少女は、役所の近隣の娘なのだという。

 

 「・・・何年も勝手にできて、雑になった・・・のだろうな。ジニは俺の実家の近くだから役所からは村で言うと三つほど離れているんだ。」

 

 ウタクが辛抱強く追った少女の生家とその行く末。その先にまさか、自分の知り人がいるとは、と唇を噛んでいる。

 

 「分かったのが6名。すでに二人この世の人ではない。残りの四人のうち三人は、ヒヒ爺に囲われている・・・。」

 

 「・・・いずれ・・・いずれあたしと同じ目にあいますよ、みな・・・。」

 

 不意にジニが口を開いた。

 

 「私は・・・最初に売られた商人の隠居が死んだとき、その親族から追い出されました・・・その時は私を売り買いした奴が上手く近くにいて、私をまた売ったんです・・・次の隠居に・・・。あたしは嫌だと言った。働くなら別に水仕事だって土を掘る仕事だってした。何でもやらなきゃいけないのが小作なんだから、あたしだってなんでもして働ける。けど、あいつは私を台所働きだからと隠居に売ったんだ、あたしを騙して。それで結局隠居の身の回りの世話も、花妻も一緒くたにさせられて・・・また死んだら追い出されたんです・・・。」

 

 行き場のない人間が溜まる場末に行き、結局男に身を売るしかなかったその後一年で体はボロボロになり、ウタクが見つけ出したときには、もう年齢すらわからないぐらいになっていたのだ。

 

 泣く気力すらないジニを痛ましそうに見たウタクは、もう我慢ならない、と顔をゆがめた。

 

 「親たちに聞いた娘を売った金の高は、米一升分ぐらいだった。金すらあいつが巻き上げてるんだ。ジニはもうどうなってもいいからと証言をすると言うから、俺が代理で上訴状を書く。それに、ジニや他の娘にあいつの花妻にさせられた経緯を聞いたよ・・・許せない罪だ、ただの人攫いだ・・・。」

 

 見初めた少女が一人の時を調べ、連れ去るのだそうだ。さんざんに慰んだ後、迷っていたので助けた、かわいらしいので手元に起きたいのだ、と親にいくばくかの金を渡す。美々しく飾り立て、何人かの私兵を連れた両班に、小作が何を言えるだろう。だめだと言ったら、私兵が握る槍で突かれる、そう思って怯え、他の家族のことを思い、耐えてくれ我慢してくれえ、と娘に頭を下げるしかないのだ。

 

 「・・・それを調べるのに、そんなにやつれたのか、ウタク。」

 

 「仕事の合間、周りの、養家の目すら盗んで調べなきゃならなかったからな。で、俺はあいつをあの地から出したい。出すだけでなく、罰したいが、ジニしか証言する者がいない。他の娘は・・・。」

 

 今の生活が少しでも続く方がいい、と言うんだ、とウタクは悲し気に言った。

 

 「爺の相手は嫌だが、飯も食える、いい家に住める、着物もそこそこいいものが与えられる、こんな生活を一度してしまったら、もう小作の仕事には戻れない、というんだ。」

 

 ジニも首を横に振った。隠居が死ねば親類からすれば花妻など邪魔なだけなのだ。それを二度も経験したジニ。自分の立場には何の価値もないことを、まだ若い彼女たちは知らないのだと自嘲する。

 

 若いのだ。一人など、まだ二十歳になったぐらいだという。隠居からすればまばゆいばかりに若い女。その優越が一瞬のものだと、若い娘にはわからない。

 

 「だが、一つ、危ない橋を渡れば・・・現場を押さえられるんだ。あいつが・・・新しい娘を見つけたようだ。」

 

 力を貸してくれ、とウタクはソンジュンを強くにらんだ。

 

 

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