㊟フォロワー様500名記念リクエスト。
成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
時はなかった。男に慰み者にされる少女の回転は年々速くなっている。最初に毒牙にかかった時には一年半男の元にいた。しかしここ二年の間で、今男が囲う少女は三人を数えるという。今の少女も、囲われて間もなく半年ほどが過ぎる。その間に男は次の少女に狙いを定めた。何という鬼畜、何という悪行。書斎の中は嫌悪に満ちていた。
少女の親にも本人にも知らせない。密かに見張る。現場を押さえるのだ。それが最もいい方策でしかなかった。しかしそれにはウタク一人では無理だ。味方などいるとは思えない。男は力を持っていた。金も。自分の言いなりになる役人に入れ替えて10年も同じ地域に居座る両班。周りにその所業を諦めて受け入れさせることのできる男だった。
ソンジュンは、ジニの上訴をすぐさまここで作り上げるようウタクにいい、他の者に書斎に入らないよう厳しく言いつけてスンドリを扉前に残し、屋敷を出た。
向かったのは王宮内のある役所。今そこで副官の立場にいる人物に用があった。
「んだよ、忙しいんだよ俺は。」
官服を着ていないソンジュンを面倒くさそうに眺めたのはジェシンだった。午後を回った時間にしてはそこそこきちんと着ている官服姿を珍しいとみていると、何も言っていないのに、シクに直されたんだ、と視線を遮るように持っていた紙をバサバサと振り回した。
「報告書を清書させに右筆のところに行ったらシクがいてよ・・・あいつの書類なんぞ清書いらねえだろ、俺のを先にしろ、とねじ込んでたら、シクがぶうぶう言いながら帯を締め直しやがったんだ・・・。」
頭には届かなかったんだな、とソンジュンはいがみにいがんだ帽を形ばかり直してやり、本題に入った。ソンジュンにも時がないし、ジェシンは短気だからだ。
話を聞いたジェシンは顔をゆがめた。ジェシンは本当にこの手の話が嫌いだ。四人衆の中で、小さいものに優しくする、という精神が最も濃ゆいのがジェシンだと、ソンジュンは成均館時代から思うほど、彼は子供や弱い立場のユンシクに優しかった。女人は少々苦手なようであったが、周囲に娘がいれば、やはり優しかっただろうと確信できる。
「事件化していいんだな。」
「はっきりと処罰するべきだと思いませんか。」
「当たり前だ胸糞悪ぃ。」
ジェシンは主に罪を犯した両班を取り締まる部署にいるのだ。ただし上司は老論。
「てめえが大監には話を通せ。いらねえ手出しをしないようにちゃんとな。」
夕刻には出る、ウタクを門前によこせ、連れて行く、とすたすたと行ってしまった、と思ったら、来い!とソンジュンを振り返り、上司の執務室に連れて行くと、ソンジュンをそこに放り込んでいった。
驚いて目を剥いている兵曹判書に軽く頭を下げると、ソンジュンは軽くため息をついてから、口を開いた。
夕刻、落ち着かない様子でたたずむウタクの前に、旅装のジェシンがやってきた。5人の下級武官を従えている。
「久しぶりだな、ウタク。」
「コロは・・・コロだなあ・・・。」
ジェシンは王宮の官吏だが、しょっちゅう暗行御史に行かされるため、日に焼けている。その精悍な風貌は、成均館のころとあまり変わらなく見えたのだ。
「てめえ、助太刀呼ぶならよ、相手の人数ぐらい先に言えよ。分らねえから適当に連れてきたじゃねえか。」
「ええ~・・・。俺、こういうの苦手なんだよ・・・。」
慣れない探索をし続けたこの半年。やつれた顔を眺めて、ジェシンはにやりと笑った後、ぐ、と顔を引き締めた。
「まっすぐ俺たちをそこに連れていけ。こいつらには長丁場になるが我慢しろと言ってある。皆・・・。」
ぐるりと振り返った下級武官の顔は怒りに満ちていた。
「娘を持つ父親だ。」
そして言った。
「その男の親戚などはイ・ソンジュンに任せとけ。あいつは老論だ。老論の始末はあいつの役目だからな。」
ウタクはこんな時でも感心してしまった。
「コロ・・・大人になったなあ・・・。」
やり口がなかなかの策士だ、とつぶやくウタクに、ジェシンは笑った。
「この王宮でやっていくには、頭を使わなきゃならねえんだよ。」