貴方の香り その24 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。

  ご注意ください。

 

 

 「どうしたんですか?」

 

 駆け寄ってすぐにユニは聞いた。初めてなのだ。一緒に帰ろうなどとジェシンが誘ったのは。もちろん、相手がいることでナンパ避けになると、ジェシンとつき合った振りをしているユニだが、ジェシンに対して何も思っていないわけではない。助けてくれたあの日に抱いた印象は、ユニにとっては悪いものではなかったのだ。

 

 良くも悪くも目立っていたジェシン。ユニも存在を教えられて知っていたほど。けれど、ユニにしつこく迫ってきた男子学生達を数語で追い払い、格好をつけることなく落ち着いた様子で話に応じてくれた姿は、ユニから見れば数段大人の男に見えた。ジェシンは年相応の見かけだ。別に老けている訳ではないが、ナンパ学生達の軽々しい物腰に困っていたせいか、比較してとても穏やかで落ち着いた雰囲気に見えたのだ。

それに、ユニを助けるとき、殆ど覆い被さるような格好になったあのとき、ジェシンからふわりと漂った紫煙の移り香。懐かしい父の部屋の香りが鼻先をくすぐっていったように思ったのだ。だから、後にジェシンがユニの前で吸わないことに気づいて勧めたのだ。ユニにとって煙草のほのかな香りは、決して厭なものではないのだから。

 

 街ですれ違う男性の中には、煙草のきつい香りを放っている人もいる。ユニだってそこまでになると側にいるのはきつい。どうしてジェシンの香りはきつくないのだろう、吸う本数がすくないのかしら、とユニは時々思っていた。本数の問題はあるかも知れない。けれど、煙草の香りのみが軽く香ると言うことは、ジェシンの体臭、またはコロンや香水など、他の匂いが殆どないから混じらないのだとはユニは分っていなかった。どちらにしろ、ユニがジェシンの側にいることを否定する理由にはならなかった。

 

 必死に話題を繋ごうともしない、ユニが図書館でしなければいけない事をしているときは、側で静かに本を読んでいる。二人でお茶を飲んでいるときも、のんびりとユニの学部での話や家族の話を聞いてくれる。ジェシンはとても居心地のいい男性だった。最初のきっかけになったナンパ男がユニに何もしてこなかったとしたら、ジェシンとの付き合いを辞める可能性など、ユニはすっかり忘れている。ゆににとって、ジェシンといる時間は日常になってきていた。

 

 だから、一緒に帰ることを誘われたのは、初めてだったから何かあったのかとは思ったが、困る事はなかった。ユニはいつも大急ぎで帰るだけだから、友人達とはいつも講義室で別れていた。誰に義理を立てる必要もなかったのだ。

 

 「何にもねえよ・・・。ただ。」

 

 行くぜ、と顎で正門の方を指して歩き出したジェシンの横に、ユニは急いで並んだ。

 

 「さっき・・・ヨンハの馬鹿が煩かったろ・・・。あいつが来ると本当に話が遮断される・・・。」

 

 ユニはクスクスと笑った。確かにジェシンの友達だというあの人は賑やかだった。一つ一つの言葉や動作が大げさで、それをジェシンに突っ込まれ殴られている姿は、びっくりはしたけれど面白くもあったから、ユニはジェシンにそのまま言った。するとジェシンは眉を顰めてユニを見下ろしてくる。

 

 「そんな事あいつに言うんじゃねえぞ。調子に乗って大騒ぎするに決まってる。」

 

 そう答えてから、ユニにどのルートで帰るのかを聞いたジェシン。ユニは自宅から徒歩か自転車で行ける家庭の子供を三人受け持っている。だから自宅に向かって帰るのだ。大学を出て駅の近くの数路線が発着するバス停からバスに乗って帰る。ふんふんと聞いていたジェシンは、路線番号を聞いて笑った。

 

 「なんだよ。俺が途中で降りるだけじゃねえか。もっと早くに聞いときゃ、今までも一緒に帰れたな。」

 

 「お家の近くのバス停ですか?」

 

 「いや、前に言ってた予備校に近い停留所だ。毎日行ってるからな、今までよくバスの中で会わなかったもんだ。」

 

 ちらりと周りを見渡したジェシンの視線に、ユニは気づかなかった。そして、その目が一瞬すうっと細まって、少しばかり雰囲気が変わったことも気づかなかったのだ。

 

 

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