㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
ナンパ学生二人は、ユニの事を探しに文学部の側まで来ていたらしい。二人の姿を学生達の中に見つけて、ジェシンはす、と目を細めたが、ユニには言わず前を向いた。バスの時間をユニに確かめ、二人で少し足を速める。
ジェシンはその二人に恨みをもたれるようなことはしていない。関わりすら持つことをしていない。声をかけてきたことは確かにあった。けれど、それはあの二人の本当の意志ではない。二人が仲間として付き合いのある政治家の子息グループの中のボス格の男が声をかけさせたに違いないことは丸わかりだった。だから、ジェシンが二人の声かけを無視したことを、二人は面倒がなくなってよかった位に思ったはずなのだ。彼らは、仲間内でのカーストをものすごく気にする。ジェシンが仲間に入れば、いかに新入りとはいえ、その頭脳と腕っ節の強さですぐに上位に位置するようになることなど分っていたはずだ。ジェシンだってその二人のような奴らの下っ端になる気などさらさらない。もともと仲間になる気も全くなかったが。
さっき盗み聞いた内容では、誰から指示されたわけでもなく、ただユニが可愛いから声をかけようという意味合いが強いとジェシンは判断した。もちろん、自分の恋人という設定だから、ムン・ジェシンという多少学内で名の通った男から女をとったという名誉がつく、位の虚栄心はあったみたいだが。それでも妙な対抗意識をジェシンに持っている二人のグループのボスが関わり合ってはいなさそうで安心はした。ジェシンは一年遅れで今三回生だが、そのボスはすでに四回生だ。父親が国会議員を長くやっていて、その事務所に秘書として就職が決まっているその男は、入学当初からジェシンを意識していることが丸わかりだった。成績のこともあっただろう。ジェシンにとっては何の関係も感じない男だったのだが。時に会うと嫌みなのか何なのか分らない言い合いが挨拶代わりだ。最近は大学にも時折しか来ていないようだから、会いもしていないが。
だが、面白くはない。ユニが可愛いから目をつけた、それは外見だけの問題だ。確かにジェシンも、図書館でのユニの姿にみとれた。そこから始まった。しかし、ユニの姿の美しさだけでなく、その知性や純粋さも見て取ったのだ。そして実際にしばらく観察し、直に話をするようになって彼女の真面目さや賢さに、そしてある意味珍しいぐらいのおぼこさに益々魅力を感じ始めている。そんなユニの良さを、可愛い、だけの言葉で決めつけて欲しくはない。まるでそれだけしか価値がないかのように。
「大体同じ時間に帰るのか?」
「教職課程の一般教養もとっているので、毎日最終の講義まであるの・・・。だから乗らなきゃいけないバスが決まってきちゃってます。」
「なら、毎日一緒に帰れるじゃねえか。俺も毎日予備校に行ってるんだから。」
「ジェシン先輩も五限まであるの?」
「ない日もあるが、どうせ時間を潰してから行くんだから一緒だ。」
早く街に出た日は、チェーンのコーヒーショップで本を読んだり、本屋に行ったりする位なのだ。ユニを待って大学のカフェで安いコーヒーを飲んでいれば時間などいくらでも潰せる。予備校の夜間の授業が始まるのは毎日同じ時間だし、ジェシンに取って何も問題は起らない。それよりも、ユニが変に声をかけられない方が大事だった。
どんどんユニにはまっていく自分に苦笑が漏れる。大学には、綺麗におしゃれした女の子も、モデルのバイトをしている子も、学内のミスコンテストで上位に入る子もいる。外見の綺麗な子などたくさんいる。当然ジェシンが入学したときからだ。学生の人数が多いのだからいて当たり前。周りの男子学生は、あの子が好み、この子が可愛いと盛り上がっていた。けれど、ジェシンは何の興味も引かれなかった。それなのに、今はどうだ。素朴なおしゃれしかしないけれど、とても可愛い女の子一人に夢中だ。男子学生に声をかけさせたくないぐらいに。ユニが断ると分っていても、まず声をかけられることが厭だ。
「じゃ、大体同じところで待つことにする。あ・・・文学部での講義ばかりか?」
「はい。あ・・・バス・・・今日は遅れてないんだ。」
バス停に来たバスに乗り込むとき、ひょいとユニの進路を空け、先に乗るよう身を躱したジェシンの仕草に、ユニが少し照れたことを、ジェシンは気づかないまま、ユニを守るようにしてステップを上がっていった。