貴方の香り その20 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。

  ご注意ください。

 

 

 「計画的か?」

 

 「いや。」

 

 短く聞くヨンハに、短くなった煙草を指で挟みながら、ジェシンも短く答えた。探られる腹などない。ユニがナンパされているところに行き合ったのも偶然と言えば偶然。確かに図書館に来るユニをよく待ってはいたが、つけ回していたわけではないのだ。その日も、図書館からユニが出ていった後、自分も場所を移ろうとしただけだった。外に出て、煙草でも吸っていこうかと中庭の方に向かったら、ナンパの現場に行き合ったのだ。

 

 確かに、そのナンパをきっかけにした。利用したと言っていい。ジェシンは人見知りでも何でもないが、女の子にほいほいと声をかけられるほどの肝っ玉は持っていない。喧嘩とは違う肝っ玉が必要だと常々思っていた、というより、ユニを図書館で探すようになって、初めてヨンハの軽さがうらやましくなった事を思い出して、つい、今隣にいるヨンハを睨んでしまう。こいつをうらやましく思うなんて、と多少プライドが傷ついた、というところだろうが。

 

 「・・・始まりは偶然・・・。だが、掴んだチャンスを手放す必要はねえだろ?」

 

 笑いもせずに煙を吐き出すと、ジェシンはちびた煙草を、デイパックのサイドポケットから出した携帯灰皿に突っ込んだ。煙が風で流れてくるのか、ヨンハは手で顔の周りを忙しく払っている。

 

 ジェシンが短い付き合いの中で知ったユニは、真面目で働き者で賢い、というわかりやすい彼女の行動だったが、話をするうちにもう一つ分った事がある。

 

 ユニは結構な世間知らずだということだ。

 

 知識として知っていることは多いかも知れない。けれど、ユニはまず遊ぶことを知らない。大学生とは思えないぐらい、学生らしい事をしていない。それはもっとさかのぼって、中学、高校時代からの習慣でもあるようだ。

 父親が亡くなってから、働きに出た母親の代わりに家事をすることが増えた。勢い、真っ直ぐに学校から帰宅する。よく熱を出したらしい弟の世話もあるから、休日も友達と遊ぶ事などなかった。経済的に受験塾に行かせてくれとは言えなかったから、必死に勉強を独学でしなければならないので、余計に外出は減った。大学に入学したらしたで、学費以外の金銭的な負担を母親に課したくないために、アルバイトにいそしむ毎日が待っていた。流行も、男女交際の楽しみも、友人と出かけることも、何もしたことがない。知らない。知らないからこそ、不満も持たない。というより、そうするしか仕方がないのだ、と彼女は達観している面があると感じた。

 

 「ある意味、金のあるなしに関係なく、『箱入り娘』って感じだな・・・。」

 

 そんな事をぽつぽつと説明した後にそう付け加えると、ヨンハが感心した様な顔をしている。

 

 「今時、そんな子いるんだねえ。」

 

 俺の周りにはいないね!となぜか胸を張っているが、威張るような事じゃねえだろう、とジェシンはぼんやりと思った。ただ、そんな話をした背景には、ジェシンの不安というか自信のなさがあるのだが、ヨンハはさすがにその辺りは鋭かった。

 

 「つまり、ユニちゃんは、男を好きになる、ということにきわめて不慣れで、多分今もコロに対しての意識に、恋心が混じって来ていない。コロのことを男として意識してくれない、ってところかね。」

 

  まあな、とジェシンはぼんやりしたままベンチの背もたれに両腕を載せ、上半身をだらしなく仰向かせた。きっかけは掴んだ。チャンスは手放さなかった。勢いのまま、ユニをつなぎ止めている。多少ジェシンに慣れてもくれた。親しみも涌いてきているようだ。だが、まだまだだ。長期戦になるのは覚悟していた。ジェシンの事を全く知らず、意識もしていなかった男としてつきあい始めたのだから。ちょっとずつ周りにカップルだと認識させ、外堀から埋めてしまえ、とせっせとユニを迎えに文学部に通っているが、思っていたよりもかなりおぼこくて、ジェシンの意識的なユニへの態度はあまりユニ自身にヒットしないのだ。

 

 「さっきの、自信満々なコロが嘘みたいだな。」

 

 珍しくヨンハがからかいの色なしに呟いたのが余計に悔しくて、ジェシンは思わず睨んでしまった。

 

 

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