㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
自分の頭越しに繰り広げられる、ジェシンとヨンハの攻防に、ユニはきょろきょろとしたあげくにクスクスと笑い出した。
「ふふ、とても仲良しなんですね・・・。」
どこがだよ、とジェシンはぶーたれ、ヨンハはそうだろうそうだろう、と笑みを浮かべた。殴られた頭をさすってはいるが。仲良しですよ、と続けて言ったユニが、それでも、とまたジェシンの方を振り返って、少しばかり不機嫌そうなジェシンと向き合う。
「でも、ヨンハさんはいたい、って言っていたから、もう少し優しく殴った方がいいと思います。」
「おお、そうする。」
「ちょっと待って!そこは『もう殴っちゃダメ』って言ってくれるところだよね?!」
そうですね、といいながらも、ジェシンに訂正してくれないユニだったが、もう一度ヨンハの正面に向き直ると、軽く頭を下げた。
「誘っていただいて嬉しいんですけど、私、お食事にはおつきあいできる暇がないんです。」
ごめんなさい、といいながらユニは立ち上がった。
「そろそろ時間なので行きますね。」
「おう、また明日。」
軽く手を上げるジェシンと、見送るヨンハにぺこりとお辞儀をすると、ユニは小走りに文学部の方へと走っていった。そういえば、風に乗って学生の声が聞こえてくる。さすがに講義の時間よりは出歩く人数が増えるのだろう。ユニはその声を拾ったのだ。時間を見ると、前の講義が丁度終わる頃合いだった。
「・・・あいつ、バイトで忙しいんだよ。大学での講義が終わったら、家庭教師先に急いで向かってる。ほぼ毎日だな。だから、昼飯もさっさと済ませて、レポートを書いたり用事をしたり・・・あと、友達と喋る時間も昼飯の時だけじゃねえのかな。俺も昼飯は誘わねえようにしてる。」
ジェシンがぼそ、と言った。そして胸ポケットをひっかくように探り、煙草の箱を出すと一本咥え、ライターで火を付けた。ふう、と煙を吐きながら、ユニが去った方向を見ている。
「惚れてるんなら煙草はやめたら?気を遣ってユニちゃんの前で吸わないようにしてるんだろ?」
行ったとたんに吸うなんて、と言うヨンハに、うるせえ、とジェシンは一言だけ言い返した。
「それに、煙草の匂いって移るんだよ。まあ、そんなにひっついてはいないようだから、今のところは大丈夫そうだけどさ・・・。」
「・・・嫌がってはいねえ・・・。」
そう答えたジェシンに、今時珍しい子だね、とヨンハが話を繋ぐと、ジェシンは煙を吐きながら独り言のように呟いた。
「死んだ父親が吸ってたそうだ・・・懐かしい香りだと言ってた。まあ、身体にいいものじゃないから、あいつに煙を吐きかけるつもりは一切ないんだが・・・。」
「俺は煙を吸ってもいいわけね・・・。」
「まあ、ぶっちゃけると・・・。」
聞いちゃいねえ、とヨンハが嘆く振りをしている横で、ジェシンは薄く笑っていた。
「少しぐらい匂いをつけていけばいいとは思っている。ただ、あいつは女子の友達しかいねえみたいだから、その子達に嫌がられるのはダメだろう?だからなるべくあいつの前では吸わねえことにしてるな・・・。」
ヨンハは、少し口を空けていたよな、俺、と後で思った。それぐらい驚いた。
「なに馬鹿面晒してんだよ?俺が何かおかしな事言ったかよ?」
そうだね、そうだよ。おかしな事だよ。コロが言うからおかしく聞こえるんだよ。お前の口からそんな。
「ものすごい独占欲に聞こえるんだが・・・?」
そう、そんな独占欲の権化みたいな言葉がでてくるなんて、長年親友やってる俺が、初めて聞いたぐらいだ。というか、コロ。お前独占欲なんか持ってたんだ?
「おう。その通りだ。何か悪いか?」
薄く笑う顔は変わらない。その顔で、煙草をくわえて、顎を上げるなよ。どこの映画のスターだよ。テコンドーやっているときより、俺を殴る時より男臭い顔するなんて、初めて知ったよ。
「あいつは俺の女だよ。まだ勝負はこれからなんだ。邪魔すんなよ、ヨリム。」
高校時代に、コロ、というあだ名を進呈すると共に、自分にもふざけてつけた、女誑しという意味のあるあだ名をわざわざ呼びかけて、ヨンハの長年の親友のはずの男は、見せたことのない男臭い笑顔を向けていた。