貴方の香り その19 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。

  ご注意ください。

 

 

 自分の頭越しに繰り広げられる、ジェシンとヨンハの攻防に、ユニはきょろきょろとしたあげくにクスクスと笑い出した。

 

 「ふふ、とても仲良しなんですね・・・。」

 

 どこがだよ、とジェシンはぶーたれ、ヨンハはそうだろうそうだろう、と笑みを浮かべた。殴られた頭をさすってはいるが。仲良しですよ、と続けて言ったユニが、それでも、とまたジェシンの方を振り返って、少しばかり不機嫌そうなジェシンと向き合う。

 

 「でも、ヨンハさんはいたい、って言っていたから、もう少し優しく殴った方がいいと思います。」

 

 「おお、そうする。」

 

 「ちょっと待って!そこは『もう殴っちゃダメ』って言ってくれるところだよね?!」

 

 そうですね、といいながらも、ジェシンに訂正してくれないユニだったが、もう一度ヨンハの正面に向き直ると、軽く頭を下げた。

 

 「誘っていただいて嬉しいんですけど、私、お食事にはおつきあいできる暇がないんです。」

 

 ごめんなさい、といいながらユニは立ち上がった。

 

 「そろそろ時間なので行きますね。」

 

 「おう、また明日。」

 

 軽く手を上げるジェシンと、見送るヨンハにぺこりとお辞儀をすると、ユニは小走りに文学部の方へと走っていった。そういえば、風に乗って学生の声が聞こえてくる。さすがに講義の時間よりは出歩く人数が増えるのだろう。ユニはその声を拾ったのだ。時間を見ると、前の講義が丁度終わる頃合いだった。

 

 「・・・あいつ、バイトで忙しいんだよ。大学での講義が終わったら、家庭教師先に急いで向かってる。ほぼ毎日だな。だから、昼飯もさっさと済ませて、レポートを書いたり用事をしたり・・・あと、友達と喋る時間も昼飯の時だけじゃねえのかな。俺も昼飯は誘わねえようにしてる。」

 

 ジェシンがぼそ、と言った。そして胸ポケットをひっかくように探り、煙草の箱を出すと一本咥え、ライターで火を付けた。ふう、と煙を吐きながら、ユニが去った方向を見ている。

 

 「惚れてるんなら煙草はやめたら?気を遣ってユニちゃんの前で吸わないようにしてるんだろ?」

 

 行ったとたんに吸うなんて、と言うヨンハに、うるせえ、とジェシンは一言だけ言い返した。

 

 「それに、煙草の匂いって移るんだよ。まあ、そんなにひっついてはいないようだから、今のところは大丈夫そうだけどさ・・・。」

 

 「・・・嫌がってはいねえ・・・。」

 

 そう答えたジェシンに、今時珍しい子だね、とヨンハが話を繋ぐと、ジェシンは煙を吐きながら独り言のように呟いた。

 

 「死んだ父親が吸ってたそうだ・・・懐かしい香りだと言ってた。まあ、身体にいいものじゃないから、あいつに煙を吐きかけるつもりは一切ないんだが・・・。」

 

 「俺は煙を吸ってもいいわけね・・・。」

 

 「まあ、ぶっちゃけると・・・。」

 

 聞いちゃいねえ、とヨンハが嘆く振りをしている横で、ジェシンは薄く笑っていた。

 

 「少しぐらい匂いをつけていけばいいとは思っている。ただ、あいつは女子の友達しかいねえみたいだから、その子達に嫌がられるのはダメだろう?だからなるべくあいつの前では吸わねえことにしてるな・・・。」

 

 ヨンハは、少し口を空けていたよな、俺、と後で思った。それぐらい驚いた。

 

 「なに馬鹿面晒してんだよ?俺が何かおかしな事言ったかよ?」

 

 そうだね、そうだよ。おかしな事だよ。コロが言うからおかしく聞こえるんだよ。お前の口からそんな。

 

 「ものすごい独占欲に聞こえるんだが・・・?」

 

 そう、そんな独占欲の権化みたいな言葉がでてくるなんて、長年親友やってる俺が、初めて聞いたぐらいだ。というか、コロ。お前独占欲なんか持ってたんだ?

 

 「おう。その通りだ。何か悪いか?」

 

 薄く笑う顔は変わらない。その顔で、煙草をくわえて、顎を上げるなよ。どこの映画のスターだよ。テコンドーやっているときより、俺を殴る時より男臭い顔するなんて、初めて知ったよ。

 

 「あいつは俺の女だよ。まだ勝負はこれからなんだ。邪魔すんなよ、ヨリム。」

 

 高校時代に、コロ、というあだ名を進呈すると共に、自分にもふざけてつけた、女誑しという意味のあるあだ名をわざわざ呼びかけて、ヨンハの長年の親友のはずの男は、見せたことのない男臭い笑顔を向けていた。

 

 

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