㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
図書館は、各学部から少し離れている。一番近いのが文学部だ。利用者は、ネットが発達した今、少なくなっているのだろう。いつも静かなものだ。今、ジェシンとユニが座って話をしているベンチの前の道も、時々学生達が通り過ぎていくだけだ。
それでもユニは恥ずかしい気持ちの方が先に立つらしい。そのモジモジした様子が逆に初々しくて可愛らしく映っていることに気づかないまま。ジェシンが余裕のある先輩風を吹かしているから、余計にその落差が目立つ。それでいいとジェシンは思っている。主導権を握っているのがジェシンだと、ジェシンがユニに言い寄った結果こうなっているのだと思わせておくのが一番波風が立たない。その辺りは、非常に情報操作が上手く行っていると思っているジェシン。
バカップルに見えると言っても、二人が会うのは大学の構内だけだ。最初に講義の時間割をすりあわせたとき、二人とも、お互いがとっている講義の多さにお互いに驚いた。こうやって時折空き時間はあるが、同学年の学生達に比べて、二人とも講義の時間割は埋まっている方だ。
それには理由がある。なぜ講義のコマ数が多いかは、ちゃんと教え合った。ユニは教師の免許を取るために、教員採用に必要な教養科目を余分にとらなければならないのだ。一回生の時は、必須科目が多くて取れなかった。それに後回しにすると、実習がある4回生時に必要な講義が残ってしまう可能性がある。できるだけ早くにめどを付けたい、そのために二回生の講義のコマ数が多くなってしまった。
ジェシンには四回生の時に受けたい試験がある。国家試験だ。弁護士や裁判官、検事になるための。そのために、四回生で必須のゼミと卒論以外の単位を取りきっておきたかったのだ。今も国家試験に向けた勉強は始めている。これはユニには言っていないが。だから、ジェシンは大学での講義の後、週に三日ほど国家試験対策の塾に通っている。ひたすら必要な事を詰め込むだけだ。だから、大学での講義が終わった後も、案外忙しいことが多い。
ユニはバイトがある。小学生の家庭教師をしていると言っていた。三人受け持っているらしい。その時、初めてジェシンは知ったのだ、ユニの父親が故人であることを。学費は払って貰えてるらしいが、小遣いや学生生活に必要な金は自力で稼いでいると言った。バイトなどしたことがないジェシンは、それだけでもユニがとてもしっかりしていると思える。
ということで、二人が大学の外で会うことはない。約束すらできない。お互いにお互いのやらなければならないことがあり、それを尊重している、という事になっているから。
「ここでバカップルに見えないで、どこでみせるっていうんだよ?」
とジェシンが笑うと、そうなんですけど、とユニが唇をとがらせた。
「学部も違う、学年も違う、生活サイクルは合わない、ってのが大変な組み合わせなんだから。」
ユニの言いたいことは分る。ジェシンはこの数日の間に、毎日に近いぐらい文学部に顔を出し、ユニの友人の前でユニを連れ去った。甘い恋人の顔で、けれど、少々強引に。それは興味を引くだろう。今まで恋バナと無縁だったユニが、ちょっとばかり悪い感じの男に振り回されているのだから、実はね、という話を聞きたいに決まっている。それをされたくないから、迎えに来るなと言いたいのだろう、とジェシンは察している。でも、悪ぃが。
「講義の合間のお前を捕まえないとろくに会えねえんだ、って一生懸命な彼氏でいいんじゃねえか?で、ユニは優しいから仕方がなくつき合ってやっている。俺は会いたいのと、いい女の恋人を独占したいのとで頑張っている。って言うことにしとけよ。多分みんなそう思い始めてるから、思わせておこうぜ。」
そう、悪ぃな。
既成事実ってのは、こうやって外堀から埋めていくもんなんだよ。