㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
かりそめのおつきあいを始めて二週間。ジェシンが文学部にユニを迎えに来る姿も、景色に馴染んできた・・・とはまだ言えないが、最初ほどは驚かれたり怯えられたりしなくなった。女が多いな、とは文学部に来る度にジェシンが持つ感想だ。だから目立ってしまうのは仕方がない。そう思いながら、今日もユニのリュックを人質に、ジェシンは図書館へと向かう。
ユニはユニで、ジェシンと過ごす講義の合間の空き時間が、案外楽しみになっていた、というか落ち着いて過ごせるものなのだと感じていた。元々ユニは空き時間を講義で出されたレポートなどの課題に当てる。バイトがあるために、家でやるには時間が毎日遅くなってしまうし、資料などは図書館で探す方が性に合っている。だからユニは、迎えに来てくれるジェシンには悪いが、自分のしたいこと、為なければならない事をしている。ジェシンに合わせることはない。
けれど、ジェシンは文句も言わず、資料を広げるユニの斜め前に陣取り、静かに本を読んでいてくれる。時々目を上げると、結構な速さでページはめくられていくのだが、視線が文字を追って動いているから、機械的にめくっているわけではなくちゃんと読んでいるのだとわかる。本が好きなのだ、とユニは嬉しくなった。それにジェシンはジャンルをあまり固定しないタイプらしい。ユニが必要な資料となる本を探していると一緒に同じ棚を眺め、そこで興味を引くものを席に運んでは読んでいることも多い。持ってきた、凄く難しそうな法律関係のものを読み込んでいることもある。逆に、ふらっと娯楽本のところへ行って、肩の凝らない物を読んでいるときもある。いずれにしろ、ユニが課題に取り組んでいる間、ジェシンはとても大人しく『待て』ができる『彼氏(仮)』なのだ。かえって友人達より気が楽だ。
ここまで、とユニがペンを置くと、ジェシンはゆらりと顔を上げ、ユニが机の上を片づけるのを待つ。そして外に出ると、図書館のロビーにある自販機から、ユニの好きなカフェオレをいつも買ってくれ、自分用にはブラックコーヒーを購入して、天気がよければ建物から出て、図書館前のベンチでお茶をするのだ。最初、お金を払おうとしたユニに、心底驚いた顔をした後、
「こういうのは、素直に奢られておけよ。俺は先輩で年も上で、そしてお前の一応彼氏だぞ?」
と教えてくれた。そういうものなのだ、と言っても首を傾げるユニを見て、ジェシンは苦笑しかでない。どれだけ男女交際に免疫がないんだ、と思ってしまう。それがちょっと嬉しい気持ちもあるのだが。
なにはともあれ、ユニはこのお茶の時間も結構気にいっている。人目にさらされるのが恥ずかしいと言えば恥ずかしいが、ジェシンと二人でいるときに誰も話しかけてはこないから、二人で話ができる。もっともジェシンはあまりべらべら喋るタイプではないみたいなので、二人で黙って木漏れ日を見ながらそれぞれの飲み物を飲んでいることも多い。けれど、その時間も決して気まずい沈黙なのではない。
ただ、ユニに色々智恵をつけてくれることから、女の人に詳しい友人からの受け売りだとジェシンは言うが、確実にユニより経験値が高そうなジェシンに、それは実体験ですか?とユニは聞いたことがある。するとジェシンはものすごく厭そうに眉を顰めて、受け売りだ、と一言で終わらせてしまうのだ。けれど、ユニだって聞きたいときもある。だから、ホントですか?と疑わしそうに再度聞いてみたところ、怒ったような顔でユニを見てきたかと思いきや、膝の上の手がむんずと大きな手に包み込まれてしまった。
「ホントかどうかは・・・いずれ・・・いや、すぐに分るぜ・・・。」
ジェシン先輩から聞く意外にどうやってそんな事分るんですか?なにか見せてくれるんですか、とユニの胸の内にはクエスチョンマークが何本も立ち、その上手が握り込まれていて、混乱の域に達してしまっていて、その一番重要な言葉はすっぽ抜けてしまっていたのだ。
そして、『すぐに』と言ったジェシンの言葉が頭の隅に引っかっていたのだろう。それは数日後に嵐のように襲来した。