貴方の香り その10 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。

  ご注意ください。

 

 

 「笑い事じゃないですゥ・・・。」

 

 リュックをとられたまま、手ぶらで歩くユニがふくれっ面をしているのを観て、ジェシンは機嫌良く口角を上げた。

 

 「お前の友達、びっくりしてたなあ。」

 

 「びっくりどころじゃないです・・・。次の講義・・・行きたくない・・・。」

 

 はは、と短く笑ってジェシンはさっさと歩く。けれど、ユニにとっては辛くない速度。足の長さの違いを考えたら、ジェシンがかなりユニ寄りの速度で歩いてくれているのだけは確かで、ユニは少し機嫌を直した。荷物も持ってくれてるし。というより人質みたいなものだけど。

 

 「・・・まあ聞かれるだろうな、俺との関係を。復習しておくか、ん?」

 

 からかうように言われて、ユニはつん、と顎を上げた。

 

 「覚えてます。馬鹿じゃありません。」

 

 「それならいいじゃねえか。」

 

 二人にしか聞こえない位の声で話しながら歩く姿は、昨日今日のカップルの様子ではない。そう思わせるぐらい、二人の姿は自然だった。

 まあそうだろうなあ、とジェシンは苦笑を腹の中でこぼす。

 

 こいつにとって、これは色恋じゃねえから。

 

 周りが見る姿と、二人の間に流れる空気感には差がある。それを分っているのはジェシンだけだ。

 ユニにとって、今、ジェシンは困っていることを手助けしてくれようとしている頼りがいのある先輩だ。自分が思いもつかない方法で、煩わしい男性からのアプローチや妙なからまれかたを避けることができる、そう判断しているのだ。ジェシンに向ける表情に硬さはない。若干態度がぎこちないが。それは男という生物と関わり合う機会が少なかったことを思えば、別に問題ない。

 つまり、周りが勝手に誤解しているが、二人の間の雰囲気は案外あっさりした先輩後輩のものだ。ユニはジェシンへの親しみをそう感じているし実際に表している。そしてジェシンはそう見えるように多少自分をごまかしている。

 

 感情のベクトルは、確実にジェシンからユニへと向いている。最初から。当たり前だ。知合ったときとして設定した去年の秋、その時からユニはジェシンにとって特別な女の子だった。今から思えば一目惚れなのだ。本を読む姿に、知性を感じただとか、綺麗だと思っただとかは後から飾った言葉だ。初めて会う異性に目が留まって離れないなど、一目惚れ以外に何があるというのだ。

 

 ということをジェシンは昨夜、自分の行動が意外に上手く行ったことに少々興奮してベッドの上で目を開けたまま考えていた。ナンパから助けた勢いで持っていたユニとの付き合い。もちろん、ジェシンは本物にするつもりだが、実はユニに言った卑怯者云々にも全く理由がないわけではない。

 

 ユニを軟派した二人は法学部の同期だ。ジェシンは一留しているから本来は一学年下になるだろうが、今は同じ三回生だ。そして、女関係で素行が悪いことで有名な地方の都市議員のどら息子達なのだ。

 

 ジェシンも、多少新聞などに名が載る位の警察高官である父を持っているから、多少政治関係に関わりがある家の息子だ。ついでに、家系としてはいわゆる公務員、といわれる仕事につくものが多い、少々古い家柄だ。だからこそ逆に、親の政党が同じだからといってつるむ学生グループとは距離を置いてきた。ノンポリだ、と吐き捨てるように相手との会話を断って。ナンパ男達もジェシンを誘ってきた事がある。もちろん、一緒にクラブにでも行かないか、女紹介するよ、などという遊びを装って。けれど、そいつらの後ろに、国会議員の子息がいることをジェシンは把握していた。自分でも知っていたし、情報通の親友から警告もされていた。だからにべもなく断った。めんどくせえ事に俺を誘うな、馬鹿がうつる、と。そんな奴らがユニの腕を掴んでいたのだ。つい言ってしまった、俺の女だ、って。よく考えたら、ジェシンの彼女だと思い込まれたら、逆にまた難癖を付けられるかも知れない、と、奴らが退散していくのを見送りながらそう思ったのも本心なのだ。

 

 まあ、しばらくは様子見しながら、仲を深めますか。

 

 広い学内、文学部からは図書館は近い方だとはいえ、違う建物に移る。その道のりが、今はうれしかった。

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村