㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
ユニの返事を聞いて、ジェシンは少し目を見開いた。木漏れ日のまぶしさに細めていたからだ。
いい返事が貰えるとは思っていなかった。唐突だったし、ジェシンとしても偶然に捕まえた機会に無理矢理こじつけただけの、単なる賭けに近い申し出だったのだから。この数ヶ月の間図書館で見続けた姿や様子から、恋人がいることはないと分っていたが、好きな人がいるかも知れないとは思っていた。そんな年齢だ。不思議な話ではない。大学は出会いの巣窟だ。ジェシンは法学部だが、文学部にだっていい男はたくさんいる。見かけがいいのから、頭がいいのまで。年齢も幅広い。それを理由に断られる可能性だってあったから、あまり期待はしていなかったのだが、思った以上に色よい返答が返ってきて、逆にジェシンは驚きうろたえた。
とは言っても、それを表情に出すことは耐えたが。
「・・・そうだなあ・・・まず・・・。」
ジェシンは体勢を替えないまま少し考えた。視線を感じる。さて、どうするか。
「・・・まず、今日の事は秘密、だな。」
「秘密・・・ですか?」
今日のナンパがきっかけだということになれば、さっきのナンパ男二人に大嘘をついたことになる。別に大した事ではないかもしれないが、それでもせっかくだ、ストーリーを作っておこうじゃないか。
「俺とお前が知合ったのは・・・そうだな、去年の秋ぐらい。」
俺が初めてお前を見つけた日だ、キム・ユニ。お前は知らないだろうが。
「場所は図書館。不思議じゃないだろ、お前は今日も図書館から出てきた。俺は偶然その後から出たんだが・・・よく利用するんじゃないのか?」
ええ、とユニは頷いた。そして首を傾げている。自分は図書館を利用する事が多い、では貴方は、とでも言いたそうだな。
「俺をよく知る奴らは知ってるが、俺は図書館好きだぜ・・・よく本を読みに来ている。俺の周りの奴らからしたら、不思議じゃねえ。」
まあ、と言うユニの声音に親しみが混じるのが分る。ジェシンも自分が本好きだから分るが、読書が好きな人間は思っているよりいないのだ。好きなジャンルは違っても、静かに座って本を読んでいる事が相手に負担にならない付き合いができる同士という者に、読書が趣味の人間は案外飢えている。
「・・・何度も同じ書架のところで鉢合わせした・・・そんなところが妥当じゃねえか?まあ、男としては、高いところの本を親切にとってやった、なんてエピソードがあればいいんだろうが、それこそ俺っぽくなくて、嘘だと思われるのが落ちだしな。」
「・・・そんな事ないです!」
そう強い口調で言ったユニに、ジェシンは驚いて顔を横に向けた。ジェシンと同じように壁に背をつけているユニが、強い目つきでジェシンを見つめている視線にかち合う。ジェシンを見上げる形になっているため、木漏れ日がユニの瞳に反射しているように見えて、ジェシンは眩しくて少し目をそらしてしまった。
「・・・今日だって助けて下さったのに・・・優しい方だってお友達も知っているわ、絶対・・・。だから、誰も嘘だなんて思わないわ・・・えっと・・・今回は嘘ですけど・・・。」
途中で尻つぼみになったユニの主張に、ジェシンは声を出して笑った。だって、嬉しいじゃないか。
「・・・あの・・・それに・・・あんまり細かい設定?はつじつまがあわなくなると思うので・・・出会ったのが去年の秋?で、何度も図書館で会うことがあって・・・お話しするようになって・・・で・・・。」
おう、とジェシンは朗らかに笑い続けながら言った。
「学年が上がった頃に、俺とつき合え、って俺が言ったことにしとけよ。実際、さっき言ったし。恥ずかしいから内緒にしてたって事でいいんじゃねえか?で、ナンパされているところを俺が見つけたから、俺との仲を公にしろと俺がうるさく言った、ってなところでお話の完成だ。」
「でも、それじゃあ、ジェシン先輩が凄く強引な様に聞こえます。」
いいんだよ、とジェシンは笑う。
「・・・実際強引に見えるのは俺の方だ・・・俺を悪者にしとけよ・・・。それで全てが丸く収まる・・・。」
さてと、とジェシンはユニの方へ身体を向けた。壁に腕枕のように片腕をもたせかけてそこに頭を載せ、笑っている。
「じゃ、学内でも仲よくしなきゃな。講義のスケジュール、すりあわせすっか。」
その表情がまるでいたずらっ子のようで、ユニはつい軽く頷いてしまったのだ。