貴方の香り その7 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。

  ご注意ください。

 

 

 圧迫感がゼロになった。ただ横に立って、同じ方向を見て立っただけなのに。身体の大きさは圧倒的に大きいまま。なのに、正面に立たれたときと感触が違う事にユニは驚いた。

 

 ナンパから助けて貰ったときは、覆い被さるようにユニを隠してくれた大きな身体。だが、我に返ると少し怖いものでもあった。ユニは別に身長が低いわけではないが、それでもジェシンはユニの頭一つ分大きいように思うほど上背がある。20センチは違うだろうか。だから、助けて貰ったときは現金なもので安心したのに、いざ二人きりになるとその体格差が少し怖い。

 

 だが、隣に少し間を空けて立ち、壁にもたれて斜め上を見ているジェシンに恐怖は感じなかった。それに、今、ユニに仮にも、そう本当に仮にもだ、つき合う振りをしてみないかと提案してきた男とは思えないほど、その佇まいは飄々としていた。ナンパにしろ、告白にしろ、結構押しつけがましいものだと思っているユニにとって、ぎらぎらしていない男の様子は安心するものだった。だから、ユニも同じ方向に顔を少し上げて、空を見上げた。

 

 人気が少ないと思って、昼食の弁当を食べるために来た場所だ。木が何本も植えられ、ちょっとした死角になっている小さな箱庭のような場所。木の葉の間から見える今日の空は晴れ。木漏れ日がちかちかと眩しい。隣にジェシンがいるのは分かっているし、提案に返事をする必要があるのも分っていたが、ユニはそのゆったりとした雰囲気に少し意識を飛ばした。

 

 ユニにとって、大学は気疲れする場所だった。

 学ぶことは楽しい。難しいことも沢山あるが、それを乗り越えることにやりがいを感じるタイプだ。二人ほどできた友人といるときは、楽しい学生生活を送れていると感じるぐらいには、大学を謳歌しているとは思う。

 しかし、みんなと同じがいい、という風に、持ち物や服装、そして行動に右へ倣えとばかりの誘いは苦手だった。皆親切心から声をかけてくれるのだろうとは思っている。けれど、ユニはアイドルみたいなひらひらの服や短いスカートをはきたいとは思わない。綺麗な服は好きだ。けれど、自分が安心して着られるものでないと困る。どこかが見えそうな服は苦手だ。流行のブランドのバッグもアクセもいらない。大学には講義に必要なものが入るリュックで十分だ。ちょっと出かけるための小さなバッグだって一つ持っている。講義終わりに誘われるカフェ巡りだって、バイトがあるからいけないけれど、それを可哀想だとばかりに見られる必要はないと思う。そんな誘いや視線をやり過ごすことが気疲れの原因だった。勉強だけする場所でいいのに、と思ってしまう。ただ、それではせっかくできた話の合う友人二人とも会えなかった。ユニの二年目の学生生活は、そんな気分の中で毎日がすすんでいる。

 

 そんな周りからのプレッシャーの中に、彼氏は作らないの、という話題が多くなったのは、年齢的なものだろう。若者達が集う大学。そして共学。恋愛話は周り中に溢れている。それは構わない。だけど、自分に彼氏ができて幸せだからといって、別に知り合いを幸せにしようと張りきらなくてもいいと思う。そうね、貴方は自分の好きな人が彼氏だから嬉しいし幸せなの、でも貴方の紹介してくれるという人を私は知らないし、知らないひとを好きになれるのか、つき合ってみて幸せかなんか分らないと思うんだけど、と口から出そうになったことは何度かある。遠回しに、ときにははっきりと、今恋愛に興味ないと断り続けるのも結構面倒なものだ。楽しいのに、愛されてるっていいものよ、記念日にプレゼントを貰ったの、などとのろけならいくらでも聞いて上げるから、押しつけないで欲しい、と思ったことも何度もある。

 

 そうね、振り、をしてもいいかもしれない、そう思ってしまったのは、そんな毎日とちらちらと眩しい木漏れ日のせいかもしれない。そして、隣で同じように空を見ている人の気軽な提案だったせいかもしれない。好きだ、とか、幸せだ、とかの曖昧な理由じゃなくて、卑怯者に行動させないため、という明確さがあったからかもしれないけれど。

 

 「・・・そうですね・・・じゃあ、どうしたらいいですか?」

 

 そんな返事がユニの口からこぼれ出た。

 

 

 

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