Book 050 - 万能鑑定士Qの事件簿Ⅰ / 松岡圭祐 | 午前零時零分零秒に発信するアンチ文学

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時事問題から思想哲学に至るまで、世間という名の幻想に隠れた真実に迫る事を目的とする!

■あらすじ

 

東京23区を侵食していく不気味な“力士シール”。誰が、何のために貼ったのか?謎を追う若き週刊誌記者・小笠原は、猫のように鋭く魅惑的な瞳を持つ美女と出会う。凛田莉子、23歳―一瞬時に万物の真価・真贋・真相を見破る「万能鑑定士」だ。信じられないほどの天然キャラで劣等生だった莉子は、いつどこで広範な専門知識と観察眼を身につけたのか。稀代の頭脳派ヒロインが日本を変える!書き下ろしシリーズ第1弾。

 

 

■解説

 

作家以前には催眠術師として芸能活動していた松岡氏。その知見を如何なく発揮して執筆されたデビュー作「催眠」は、何とミリオンセラーとなりシリーズ化されました。その後も同氏は「千里眼」「マジシャン」「蒼い瞳とニュアージュ」「千里眼 新」「特等添乗員α」「探偵の探偵」「水鏡推理」と多くのシリーズ物や「ミッキーマウスの憂鬱」「ソウルで逢えたら」などを手掛けておられます。

 

今回の作品は、2010年4月に発表された「万能鑑定士Q」シリーズの第1弾です。とにかくこの人、超人的な女性キャラを書かせると天下一品です。ところが、本作では殺人事件や自然死が一切発生しません。いわゆる「人の死なないミステリー小説」というやつです。

 

物語は白地に黒で描かれた「力士シール」が町の至るところにベタベタと貼られているという迷惑千万な事件から始まります。厳密には微妙に異なった3種類の力士シールが存在するのですが、そのどれもが愛嬌あるものではなく、ふっくらとした脂肪太りの顔に減り込むような細目・無表情という不気味な形をしたシールです。そんなのが大通りにある建物の扉やシャッター・電柱・ガードレールという具合にそんじょそこらに貼られている訳ですから、正に常軌を逸した光景です。

 

さて、これは誰が何のために貼ったのか?

 

「週刊角川」に勤めるイケメン記者・小笠原悠斗は、その垢抜けた外見に似合わず、かなり鈍臭くて御人好しな青年。ある日、悠斗は編集長からの命令でシールの謎を解きに奔走します。処理業者に頼み込んで力士シールが貼られていたガードレールの波板を徒歩で運んで社内に持ち込みます。

 

このシールが、いつ、どこで、何者の手によって貼られたものかが判れば、雑誌として一大スクープになる。悠斗は名のある鑑定家に声を掛けるのですが、現実は厳しく、誰にも相手にして貰えませんでした。諦めていた時、悠斗はインターネットで「万能鑑定士Q」という摩訶不思議なネーミングの店を知ります。そのサイトには「即日鑑定」「万能」という宣伝文句まで書いてあったので一縷の望みを託して悠斗は足を運びます。

 

万能鑑定士Qの店は、お洒落で小奇麗なものでしたが、そこに居たのは23歳という若い美人の女性店主・凛田莉子。「彼女が即日鑑定してくれるという万能鑑定士なのか」と疑う悠斗。彼は試しに自分の腕時計を見せて莉子に鑑定を依頼します。

 

莉子は時計を見るなり、あのシャーロック・ホームズと同等かそれ以上を思わせる能力で品定めしてしまう。更に、持ち込まれたガードレールの波板から、悠斗の職業から会社・入社歴まで言い当ててしまう。驚くどころか、すっかりと莉子を信用してしまった悠斗は「自分は現在この力士シールの謎を追っているんです」と明かす。シールに興味を持った莉子は「では、早速調べに行きましょう」と店を畳み、悠斗を半ば強引に連れ出したのです。

 

一方、悠斗の中では莉子に対して少しずつ興味を持つようになります。「彼女は美人だし、学校へ行っていた時も、僕なんかと違ってきっと優等生だったのだろうな」と。

 

その後、本書では莉子の高校時代を回想する場面が出てきます。出身は沖縄の波照間島、高校は石垣島にある八重山高校。それは、現在の莉子とは似ても似つかぬ通信簿オール1の劣等生でした。が、彼女は持ち前の天真爛漫さで、そんな事など気にもかけませんでした。故に、みんなから愛されるキャラだったのですが、両親や親戚連中は「果たしてこんな子が社会に出てやって行けるのだろうか」と莉子の将来を心配していました。ところが、上京し、社会に出てからは、そんな彼女の眠っていた能力を覚醒させた人との出会いがありました。

 

やがて彼女が万能鑑定士Qとして独立するまでのエピソードへと繋がります。

 

時は戻り、悠斗が再登場します。

勿論、彼は莉子の過去を知りません。

 

さて、力士シールの謎はどうなったのか?

物語は以外な方向へと進みます。