その功績は偉大であり、現在ではポピュラー・ミュージック界の重鎮と呼ばれているものの、以前からお茶の間に現れるのは稀だった。ＴＶのナレーターなど声の出演はあっても、映像メディアで本人が姿を見せることはあまりなかったのだ。
案外、恥かしがり屋なのかも知れない。
実は本人――最初から音楽家志望ではなかったようだ。彼の場合、高度経済成長期にしては、幼少期からノビノビと育ったようで、ポピュラー音楽に親しめる環境は既に揃っていた。だから、バンド活動はしていたものの、それで将来飯を食っていこうだなんてことは無かった。寧ろ彼は、漫画家になりたかったのだという。ＹＭＯの「体操」に登場するブルマ姿をした女子生徒の絵は、細野が描いたのだそうだ。どことなく、Amebaのピグと感じが似てるような気もするが、まあそこんとこはどうでもいいだろう。
しかし、彼にとっては超えられない才能を知った。同級生に漫画家となる「西岸良平」が居たことで道を断念、音楽へ方向転換したのだ。
所属バンドは「エイプリル・フール」「はっぴいえんど」「キャラメルママ」（ティン・パン・アレー）とこなして行き、同時に作曲家兼ソロ活動という具合にフル稼動していた。フォークから影響を受けており、初期のソロ作品からはそれが窺える。次第に他のジャンルにまで触手の伸ばして行き、それを彼の頭ん中で体系化していく。つまり、時代を先取りして誰それに影響を与えるとかそういうのではなく、本人の中で回路を作り出し、独自の音楽に仕上げていったのだ。
だから、音への追求という部分では相当に貪欲だったと思うが、反面、イギリスのパンクロッカーに見られる「外に向けられたメッセージ性」というのはあまり感じない。いわば、彼には手間隙かけて純粋に良いものを作ろうとする音楽の職人という言葉がよく似合う。
楽器も一通り使いこなせるが、声だけは気に入らなかったという。彼の口からは決して爽やかとは言えない暑苦しい感じの低音ボイスが発せられるのだが、反って飄々と歌うことにより、南国をイメージしたサウンドと調和しているのである。「トロピカル・ダンディー」「泰安洋行」「はらいそ」までのアルバムは、細野晴臣トロピカル三部作と呼ばれている。
「はらいそ」の場合、シンセサイザーの使用によってアジアンテイストまで混入されており、この頃からＹＭＯの構想はあったのではないかと思われる。その伏線となった作品が７８年に美術家・横尾忠則と共作した「コチンの月」だ。まあ、横尾が担当したのはアルバムジャケットのデザインぐらいなもので、実質作曲に関わったのは細野とゲストで呼んでいた坂本龍一、松武秀樹、によって行われた。実験的なシンセサウンドが聴ける。
ここからはソロ活動というよりも、元サディスティック・ミカ・バンドの高橋幸宏と前回レコーディングに関わった坂本に声を掛けてＹＭＯを結成。細野のプロジェクトとしてスタートしたのだが、この三人組の活躍は周知の通りである。
彼が本格的にソロへ戻ったのはＹＭＯ時代に出来なかったことをする為だったが、その集大成となったのが１３ｔｈアルバム「omni Sight Seeing」である。ワールドミュージックを取り入れた全方位観光のサウンドである。中でも、福澤もろと歌っている「Pleocene (プリオシーヌ)」は傑出している。同曲の原曲は、細野が音楽で関わったアニメ「銀河鉄道の夜」に収録の「プリシオン海岸」である。
しかしながら、細野晴臣から最も歌を感じたのは、２０１１年に発表された「HoSoNoVa」である。いわば、音楽家として晩年を迎えつつあるこの時期に、ボサノヴァの香り漂うシンプルな歌が聴けるのだ。もっとも、彼はジャンルとしてのボサノヴァが好きというよりも、５９年に公開された欧州の映画「黒いオルフェ」のテーマソングが気に入ったからなのだが。。。それが、作曲家「ルイス・ボンファ」によるボサノヴァ・サウンドだった訳だ。
ボンファから影響を受けた彼が、また独自に回路を作り出した音楽「ホソノバ」。古いようで、古臭くない。
ここに収録されてる「悲しみのラッキースター」。
ＰＶを見たら泣けてきます、本当に。
■タイトル曲 / 収録アルバム
１．はらいそ / はらいそ
２．Pleocene (プリオシーヌ) / omni Sight Seeing
３．悲しみのラッキースター / HoSoNoVa
1. 細野晴臣 - はらいそ
2. 細野晴臣 - Pleocene (プリオシーヌ)
3. 細野晴臣 - 悲しみのラッキースター
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