Artist 005 - 80年代のエディット・ピアフ / Anne Pigalle | 午前零時零分零秒に発信するアンチ文学

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時事問題から思想哲学に至るまで、世間という名の幻想に隠れた真実に迫る事を目的とする!

 音楽で成功を夢見る若いフランス人女性がいた。

名前は「アン・ピガール」。
南フランス生まれのアンは5歳からパリに移住。シャンソンの女王・エディット・ピアフから多大な影響を受け、「いつかわたしもピアフのように歌いたい」と強く願う。



以降、13歳でバンド活動をしながら年月が流れる。次第にこの若き歌姫の評判はフランス中に広まって行った。そして彼女は、更なる飛躍を求めて

海を渡った…

辿りついたのはロンドン
アンは、この未開の地で鬼才ニック・プリタスと出会うのだが、それが今後、彼女自身の音楽人生を大きく左右するものになろうとは、まだ想像がつかなかった。

アンは、ニックの作曲家としての才能を高く評価していた。
ニックもまたアンの歌声に一定以上の興味を示していた。

そういった経緯があり、この二人は「ヴィア・ヴァガボンド」というデュオを結成。
音楽活動を続けて行く中、二人の関係はバンド仲間から特別な関係へと発展して行った。

ニックはバンドとは別に、自分の書いた数曲をアンにプレゼントする。
それは、ソロ・デビューを夢見る歌手に対しての行為なのか?
或いは、個人的な感情から芽生えた恋人に捧げたものなのか?

真相は定かでないが、アンはニックに書いて貰った曲を元にデモ・テープを作成。
各レコード会社に売り込みをかけた。

しかし現実は厳しかった。

毎日、朝から晩まで歩き回るものの、どのレーベルからも断られる。
売り込みを始めた頃は山のようにあったレコード会社のリストも次第に減って行く。
そして、月日だけが虚しく過ぎ去っていった。

「とうとう残り1社だけになってしまったわ」

ZTT

リストに残っているのは、この奇妙な名称のレーベルだけだった。

(今度こそ、今度こそ縁がありますように…)

アンは、ただただ祈るばかりだった。

ZTTレーベルは、嘗てエレクトロニック・ポップバンドの「バグルス」やプログレッシブ・ロックバンドの「イエス」で活躍していたプロデューサー トレヴァー・ホーンが、妻でありビジネス・ウーマンでもあるジル・シンクレア、エンジニアのゲイリィ・ランカン、それに音楽ジャーナリストのポール・モーレイらと共同で1983年に設立した新参レーベルだった。

ZTTに所属するアーティストの特徴としては、電子音楽を駆使した攻撃的なサウンドを展開するタイプが多く、それをトレヴァーやそのスタッフの手によって奇抜に加工されたサウンドがレコードとしてリリースされている。だから、自分自身の歌でじっくり聴かせるタイプのアンにとっては、限りなく契約の可能性が低いレコード会社だった。

ところが判らないものだ。

アンの願いが通じたのか、何とZTTが契約を結んでくれたのだ。その決め手になったのは

『(ZTT広報の)ポール・モーレイが(デモ・テープに入っていた音楽を)気に入った

ただ、この一点のみだった。もっとも、ポールが評価していたのは「ヴィア・ヴァガボンド」としてのものであり、歌手のアンよりもメロディ・メーカーとしてのニックに目をつけていた。

だから、ニックに契約の話があったのだが、彼は断った。
どうやら他人の所有物になるのが嫌だったらしい。
そこで、アンに白羽の矢が立ったのである。

アンはニックの元を離れ、ZTTに所属した。

しかし、レコーディングは予想以上に難航した。
プロデューサーとアンがアレンジの方法を巡って対立が絶えなかったからだ。
トレヴァーもこの件については頭を痛めていたことだろう。

それもそのはず。

サウンドの加工を得意とし、大衆にインパクトを与えようとするZTTと
純粋に歌を聴いてもらいたいというアンの思惑が合う訳なかった。
アンにとっては、ニックがくれた大切な歌だという想いもあったのかも知れない。

それでも、何とか年月をかけてレコードが完成したのである。
電子的にならず、ジャズやシャンソンの匂いを漂わせ、時には退廃的に変化する。そんな生々しい歌が最大限に引き出された完成度の高さは「さすがZTT」と思わせるものだった。

アンは、ヴィア・ヴァガボンド時代の曲「Why Does It Have To Be This Way...」でレコードデビュー。

そして、1985年には待望のデビューアルバム「Everything Could Be So Perfect...」をリリース。アンが作曲した「Looking For Love」以外は全てニックが手がけたナンバーだった。特に4曲目「He! Stranger」は、日本でも車のCMソングに使われた名曲。

ここに「80年代のエディット・ピアフ」が誕生したのである。

アンは、その後ツアーを敢行しながら知名度を上げていったが、以降はピタッと姿を消してしまった。なので「Everything Could Be So Perfect...」は、最初で最後のアルバムになった。
ただいえることは、アンは現在でも音楽活動をやめていないということだ。



音楽で成功を夢見たフランス人女性がいた。

名前は「アン・ピガール」。
彼女は今でも歌を愛しており、その声は我々の中にも永遠に生き続けるのである。

■タイトル曲 / 収録アルバム

He! Stranger / Everything Could Be So Perfect...




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