(本好きな)かめのあゆみ -50ページ目

(本好きな)かめのあゆみ

かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

  不公平の是正。間違いない。彼らは対立する組織の一員だ。彼らの行動は阻止しなければならない。

 しかし、いまここで彼らに挑むことには意味がない。彼らはたしかに組織で重要な役割を果たしているようだが、それでも支部の構成員に過ぎないだろう。

 彼らの組織は巨大だ。まずはこのまま彼らの話を聞き続け、それを主任に報告することにしよう。

 彼らの組織は、世の中の不公平を是正することを目的に活動している。

 あたりまえのことだがいつの世にもさまざまな不公平がある。男と女との間の不公平、おとなとこどもとの間の不公平、富める者と貧しき者との間の不公平、国と国との間の不公平、時代と時代との間の不公平。自分の努力ではいかんとも是正しがたい不公平にみちている。

 彼らの組織はときに政府に働きかけ、ときに各国の要人へのロビー活動を展開し、ときにNGOやNPOを支援し、ときに街頭PRやメディア操作、あるいはSNSを利用して大衆に影響を与えながら、世の中の不公平を是正する活動に取り組んでいる。

 先日はある国で、親の経済状態でこどもの教育環境に差が出ないよう、つまり世代をまたぐ貧困の連鎖を断ち切るための政策を政府に実現させたところだ。

 その少し前には、先進国の企業が低い賃金で途上国の労働者を働かせて利益をあげる仕組みを是正すべく、途上国の労働者に企業との交渉の術を教育し、国と国との間の賃金格差の是正に道筋をつけた。

  あいにくだが今日は先に座らせてもらっているよと後ろを振り返りもせず心のなかで思う。

 まあ、がらがらの車内だからどこでも空いている席に座ればいいじゃないかとも思う。

 しかし男たちはこの特等席の背後に立ったまま会話を続けた。

「それにしてもこの箱は掘り出し物だったな。あんなところで価値のわからない素人に保管されていたんじゃ人類にとって重大な損失だからな」

「そう言うな。前の所有者がこれの価値を知らなかったおかげで破格の安さで手に入れることができたんだから」

「そうだな。この箱はわが組織にとってはイコンだからな」

「さらにキーにもなっている。これで、わが組織の目的は実現に一歩近づいたということだ」

 組織? イコン? キー? 聞き耳を立てる。

「コーネルのカシオペア#1がまさかあんなところにあったとはな」

「国立の美術館で盗難に遭ったと聞いて探していた甲斐があったというものだ」

 コーネルのカシオペア#1だって? ということは彼らの組織は。

「とにかくひとまずこの箱を支部に持ち帰ろう。きっと支部長から努力を称えるお褒めのことばがいただけるだろう。もしかしたら本部からお呼びがかかるかもしれない」

「そうだな。しかし我々はすぐに次の仕事にとりかからなければならないぞ」

「もちろんだ。我々には世の中の不公平を正し、公平な世界をつくるという使命があるのだからな」

泣ける

とか

感動

とかいわれると

むしろ敬遠してしまうぼく。

 

たまにこころが弱ってて

そういうのに吸い寄せられてしまうこともあるのだが

読みながら

やっぱりちがう

って思うことがほとんど。

 

なんとなく

こういうの泣けるでしょ感動するでしょ

っていわれてる感じがする。

 

ここが泣けるツボで

ここが感動するツボね

って押されてる感じ。

 

まあそれで気持ちよくなれるんだったらそれでいいじゃん

っていう気持ちもあるのはあるし

それで気持ちよくなれるひとをどこかでうらやましく思う気持ちも

ないことはないんだけど

これってやっぱり頑固で変なこだわりで損してるのかな。

 

この小説。

 

文庫の裏表紙にはこう書いてある。

 

第二次世界大戦中、カリフォルニア州イサカのマコーリー家では、父が死に、長兄も出征し、14歳のホーマーが学校に通いながら電報配達をして家計を助けている。彼は訃報を届ける役目に戸惑いを覚えつつも、町の人々との触れあいの中で成長していく。懐かしさと温かさに包まれる長編。

 

べつにこころが弱ってるってことではないと思うんだけど

なぜか惹かれて読んでみた。

 

あいかわらずのねじくれた疑い深い視線で読みながら

はいはいこういうパターンねそれで懐かしい気持ちにさせたり温かい気持ちにさせたりほろっとさせたりするんでしょ

ってツッコミどころをさがしつつページを繰っていたのだが

ツッコミどころが見つかるどころか

どんどん懐かしい気持ちやら温かい気持ちやらほろっとしたりなんかしながらページをめくる手が止まらない。

 

ええっなにこれどういうこと??

って珍しくクエスチョンマークを2つもつけたりなんかしながら読み進め

第33章のマーカス。

 

ああっぜったいにぜったいにぜったいに戦争なんてやっちゃいけないどんな事情があっても戦争は全力で阻止しなければならない敵に攻めさせる口実をあたえてはいけない戦争で得するひとのわなにかかっちゃいけないひとの命をささやかな家庭のしあわせをうばっていいはずがない。

 

ホーマーの前向きなやさしさとたくましさとそしてこどもだからこその純粋さと繊細さ。

 

ユリシーズのかわいらしさ無邪気さ。

 

それからホーマーの家族やともだち

電報局の局長と電信士

イサカの町のひとびと。

 

みんなにしあわせになってほしい。

 

きっとこういうのは現実には存在しないけど

誰の記憶のなかにもたしかにある

そういう理想のくらしなんだろうな。

 

 

 

 

 

--ヒューマン・コメディ--

サローヤン

訳 小川敏子