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(本好きな)かめのあゆみ

かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

ノーベル文学賞を取ったのをきっかけに知った

ハン・ガンさん。

 

まずはこの詩集から読んでみた。

 

けっして明るくはないが暗いというわけでもなく

痛みと苦しみに寄り添いながら生きているって感じで

読むほどにだんだんと滲むように沁みてくる。

 

平易な語句の組み合わせだからか心に沁みてくる。

 

現代の欧米の詩を読んだことはないけれど

それでも日本の詩に近いような気がして

そうだとすると東アジア的な感性っていうのは

やっぱりあるような気がする。

 

この詩集に収められている詩をみんなで読んで

それぞれの好きな詩の感想を語るっていう集まりをしてみたくなる。

 

ぼくがいいな好きだなと思った詩。

 

血を流す目 2

ヒョヘ――二〇〇二年冬

だいじょうぶ

自画像――二〇〇〇年冬

回復期の歌

序詩

 

繊細であるが故に

切実な痛みと苦しみを抱え続けているが

それと向き合って寄り添って受け入れている感じがする。

 

それが諦めなのか弱さなのか

あるいは強さなのかはわからない。

 

けれども共にこの時代を生きる同志のような感覚になる。

 

 

 

 

ーー引き出しに夕方をしまっておいたーー

ハン・ガン

きむ ふな/斎藤真理子 訳

現代の人類は自分のエゴで子どもを産み

産まれてくる子どものことを考えていない。

 

それに引きかえ河童の世界では

産まれてくる子どもに

産まれる前に産まれてきたいか意向を尋ねる。

 

芥川龍之介の河童はたしかそういう話だったな。

 

ということで久しぶりに再読した。

 

かなり忘れていた。

 

そもそも河童の国のファンタジーではなくて

河童の国に行ったことがあると主張する精神病院の患者の

語りの内容であるという点からして忘れていた。

 

そしてくだんの河童の出産の場面。

 

たしかに意向を尋ねるのだが

民主的で子どもの権利を尊重しているな

とは素直に思えない。

 

以下引用

 

(河童のチャック)「しかし両親の都合ばかり考えているのは可笑しいですからね。どうも余り手前勝手ですからね」

 その代りに我々人間から見れば、実際又河童のお産位、可笑しいものはありません。現に僕は暫くたってから、(河童の)バッグの細君のお産をする所をバッグの小屋へ見物に行きました。河童もお産をする時には我々人間と同じことです。やはり医者や産婆などの助けを借りてお産をするのです。けれどもお産をするとなると、父親は電話でもかけるように母親の生殖器に口をつけ、「お前はこの世界へ生れて来るかどうか、よく考えた上で返事をしろ」と大きな声で尋ねるのです。バッグもやはり膝をつきながら、何度も繰り返してこう言いました。それからテエブルの上にあった消毒用の水薬で嗽(うが)いをしました。すると細君の腹の中の子は多少気兼(きがね)でもしていると見え、こう小声に返事をしました。

「僕は生れたくはありません。第一僕のお父さんの遺伝は精神病だけでも大へんです。その上僕は河童的存在を悪いと信じていますから」

バッグはこの返事を聞いた時、てれたように頭を掻いていました。が、そこにい合せた産婆は忽ち細君の生殖器へ太い硝子の管を突きこみ、何か液体を注射しました。すると細君はほっとしたように太い息を洩らしました。同時に又今まで大きかった腹は水素瓦斯を抜いた風船のようにへたへたと縮んでしまいました。

 

以上引用

 

現代のポリコレ的にはいくつも問題がありそうな内容である。

 

もちろん当時でも問題があるかもしれないし

芥川龍之介自身の状況によるところもあると思う。

 

いろいろな問題にはとりあえず目を瞑りつつ

それでも産まれてくる前の子どもに意向を確認することはいいことだとは思う。

 

性交する際に合意を確認するのと同じように

産まれる子にも合意を確認するべきだ。

 

しかし

河童の子は産まれる前から相当の知能と知識と判断力を有しているようだが

人間の子は産まれる前にこれほどの能力を持っていないだろう。

 

そうすると合意の正当性が疑われる。

 

それならば判断力がつくまでは保護者が子どもの考えを代理せざるを得ないが

成人年齢に達した段階で再度意向を確認する必要がある。

 

とそこまで考えて

それはつまりどういうことかというと

現実で起こっていることを追認する危険な発想に行き当たってしまうのだ。

 

 

 

 

--河童--

芥川龍之介

2020年から2021年にかけて書かれた

4作の短篇集。

 

ちょうどコロナの最初の1年。

もちろんその影響がある。

 

悪口

つくつく法師

ボーイズ

旅のない

 

上田岳弘さんは

新潮新人賞の

太陽

からのファン。

 

このひとの世界の見方描き方には

共感するところが多いと勝手に思ってる。

 

ボーイズ

は導入の印象と途中からの印象がかなり違った。

切ないハッピーエンドでぼくは好き。

文学的な機微。

新しい素材なのに伝統的な文学の香りも漂う。

 

旅のない

は私小説的なエッセイかなと思いながら読んだら

世にも奇妙な物語的な

不思議でホラー味のある作品だった。

こういうのもいいと思う。

 

 

 

--旅のない--

上田岳弘