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(本好きな)かめのあゆみ

かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

福井県立図書館のホームページには

図書館で司書さんたちが

現場で見聞きした利用者からの覚え違いタイトルを

まとめたページがあり

そのなかから選りすぐりを集めたものです。

 

福井県立図書館だけでなく

全国の図書館からの情報も含まれているようです。

 

さながらクイズのようでもあり

さくっと読めるたのしい本です。

 

ぼくのお気に入りは

人生が片付くときめきの魔法

とことこ公太郎

です。

 

なかには

これ、司書さんを笑わせようと思ってわざと間違ってるんじゃないの?

というものもありますが

図書館ならではのコミュニケーションともいえるでしょう。

 

もっとも

忙しい時には遠慮してもらいたいでしょうけど。

 

 

--100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集--

福井県立図書館

大晦日から元旦にかけて

谷崎潤一郎の

二人の稚児

という短篇を読んでいた。

 

何を読もうかと迷い

美文を読もうと選んだ。

 

たしかに美文だった。

 

ことばが視覚的な美を脳内に再現することはあっても

ことばがことばのままに美を感じさせるということは

なかなかできることではないように思う。

 

現代の作家でこういう美文を書けるひとがいるだろうか。

いるかもしれないがぼくの目の届く範囲にはいなさそうだ。

いや

いまの作家にぼくは美文を求めていないのかもしれない。

 

千手丸と瑠璃光。

 

俗世から離れて育ち

俗世の

特に女人を毒として斥けるよう教育されているふたり。

 

それを真に受けて女人をおそれるふたりに

滑稽さをさえ覚えながら読み進める序盤。

 

最初から遠ざけるよりも

いったん経験させたうえで

毒かどうか本人に判断させる方がいいのにな

と思いながら読んでいた。

 

上人様も経験したことがあるんじゃないの?

 

中盤で千手丸はとうとう

経験したうえで判断しようという方向に舵を切る。

 

女人は本当に毒なのかということに懊悩しているままでは

悟りは生涯訪れないだろうというおそれからくる判断だった。

 

半日で戻ると瑠璃光に言いおいて俗世に下りる千手丸。

 

しかし千手丸は戻ってこなかった。

 

やがて

千手丸の使いと名のる者が

瑠璃光を訪ねてくる。

 

ここからサスペンスめいてくる。

 

千手丸の筆による手紙。

 

そこには女人の素晴らしさが滔々と語られていた。

 

上人様に騙されていた

千手丸も郷に下りてきて自ら女人の素晴らしさを経験するべきだ。

 

悪魔的なささやきともいえる。

 

これは千手丸の本心なのか

あるいは

悪の手により書かされたものなのか。

 

まあ千手丸の本心なのだろう。

 

ぼくとしては

女性を愛する谷崎潤一郎のことだから

瑠璃光も郷に下りて

女性との愛を満喫することになるのではないかと思いながら

読んでいたのだが

悩みに悩んだ瑠璃光は

けっきょく郷には下りないことを決断する。

 

その後

年頃になった瑠璃光は

やはり千手丸と同様に

あらためて女人への関心が強まってきて苦悩するが

なんとか打ち勝つ。

 

そのうえで

夢の中に現れた普賢菩薩の使徒から

前世今世来世と三世にわたり瑠璃光と繋がる女人の存在を告げられる。

 

その女人は今世では禽獣となっており

この山の頂でひどい傷を負って死にかけている。

 

夢から醒めた瑠璃光は

なんとしてもその女人に会いたくなり

冷たい雪のなか山を登っていく。

 

ようよう頂上に達したと思われる頃であった。渦を巻きつつ繽粉として降り積る雪の中に、それよりも真白な、一塊の雪の精かと訝しまれるような、名の知れぬ一羽の鳥が、翼の下にいたましい負傷を受けて、点々と深紅の花を散らしたように血をしたたらせながら、地に転げて喘ぎ悶えて苦しんでいた。

 

そのあとの瑠璃光の行動たるや。

 

たしかにこういう関係の方が

千手丸の手紙にあるような女人との関係よりも

どれだけ官能的なことか。

 

 

 

 

--二人の稚児--

谷崎潤一郎

2021年が終わろうとしている。

 

去年の今ごろは

来年の今ごろもきっとコロナは続いているだろうな

でももしかしたらワクチンでかなりましになっているかもしれないな

そうだったらいいな

とおぼろげに思っていたが

けっきょくひどい状況は続いていた。

 

人間の適応力というものはおそろしいもので

そろそろこの状況に慣れてしまっているような気がする。

 

デルタ株

オミクロン株

 

人間が活動を緩めないでリスクをおかそうとする

ちょうど微妙な加減にはまっている。

 

ウイルスに知能があるわけではなく

数多く変異するなかで

たまたまいまの状況に適応したウイルスだけが広まっていく

という仕組みなのだが

それでもついつい

ウイルスに戦略があるかのように感じられてしまうのは

人間が何に対しても擬人化してしまう

バイアスのせいだろうか。

 

ウイルスがあろうがなかろうが生活が変わらないひと

ウイルスのせいで生活が苦しくなったひと

ウイルスのせいでむしろ生活がうるおったひと

ウイルスがあろうがなかろうが生活が苦しいひと

さまざまいるはずだけど

それぞれの連帯が進んだとは思えない。

 

個人的には

仕事の環境が変わり

責任も重くなった。

 

これまでに一度だって楽に仕事をしたことはなかったけれど

今年は特にたいへんな1年だった。

 

粘り強さが身上だけど

今年ばかりは

無念これまで・・・

と何度折れそうになったことか。

 

まわりの励ましや慰めによって

なんとか年末を迎えることができた。

 

 

★感想は書けていないけど特に印象に残ったのは

斎藤幸平さんの「人新世の「資本論」」

 

年の初めに読んでいたんだけど

これはちゃんと感想を書きたいなと思っているせいで

ついに書けないままいまになってしまった。

 

SDGsは大衆のアヘンである

とは刺激的な表現ではあるが

実際そのとおりで

いまやっていることで自分を許せてしまう危うさを内包している。

 

いまより良い社会

いまより良い地球環境を

未来に繋いでいく

っていうのがSDGsの本質だとすると

けっして気休めに甘んじていてはいけない。

 

そんなにきれいで簡単なことじゃないんだよ

さまざまなジレンマも抱えているんだよ

と肝に銘じておきたい。

 

★これも感想を書けていないんだけど

野田秀樹さんの「フェイクスピア」

も良かった。

 

まさか後半にあそこに繋がっていくなんて

想像していなかった。

 

懸命に対応しようとしていた現場の思い。

現場の担当者の倫理。

 

後から振り返ったのではどうやっても記録されない

そのときその場所で起こった人間の尊厳。

 

話が逸れるが

主演の高橋一生さんは

荒木飛呂彦さんの「岸部露伴は動かない」のドラマ化で

露伴先生を演じていて

それも実にさまになっており

なかなかやるな。

 

 

★ついに完結

町田康さんの「生の肯定」

 

東京飄然

どつぼ超然

この世のメドレー

 

そして到達した

生の肯定

 

moonlightながら

がまさかそんなことになるなんて

 

文体もろとも世界観に没入させていただきました。

 

没入小説。

 

 

★熱かった将棋界

羽生善治さんの「瞬間を生きる」

岡村啓嗣さんの撮影した写真で

羽生善治九段の軌跡を辿ったものなんだけど

今年は将棋界が熱かった。

 

藤井聡太さんと豊島将之さんの熱戦。

結果

藤井聡太さんは竜王を含め四冠に

豊島将之さんは無冠に。

 

藤井聡太さんの無双ぶりも見たいし

豊島将之さんの捲土重来にも期待したい。

 

来年はまずは渡辺明名人と藤井聡太竜王との対局がたのしみ。

 

もちろん羽生善治さんの活躍もほんとうに願っている。

 

 

★天気の本がこんなに売れる?!ってくらい売れたのが

荒木健太郎さんの「すごすぎる天気の図鑑」

 

もともとぼくは空が好きなので

もちろん買いました。

 

まだ全部は読めていないので感想は書いていませんが

この本のおかげで

空好きのひとがこんなにたくさんいるんだっていうのが

実感できた。

 

おかえりモネ

の影響もあっただろう。

 

 

★不確実な時代への不安のあらわれ?なのかもしれない

鏡リュウジ責任編集「ユリイカ 12月臨時増刊号 総特集 タロットの世界」

カフカ全集「日記」

すばる「特集 呪」

なんかをところどころ読んだ。

 

このどれにも共通する雰囲気がある。

 

人間の不安

予見不可能性

不確実性

理不尽なことが平然と起こる諦念

 

 

 

実感として

新しい作品を読みたいという気持ちよりも

かつて読んだことがある作品や

未読の過去作品などを読みたいという気持ちが強い1年だった。

 

これもコロナで疲弊した心理をあらわしているのかもしれない。

 

もちろん仕事の重圧も影響しているだろう。

 

芥川龍之介「地獄変」

 

織田作之助「木の都」

 

谷川俊太郎さんの「詩を贈ろうとすることは」「手紙」

 

川上未映子さんの「先端で、さすわさされるわそらええわ」「水瓶」

 

川端康成「掌の小説」

 

谷崎潤一郎「刺青・秘密」

 

永井荷風「断腸亭日乗」

 

樋口一葉「にごりえ・たけくらべ」

 

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」

 

宮本武蔵「五輪書」

 

ヘミングウェイ「老人と海」

 

ネイサン・イングランダー「アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること」

 

はるき悦巳「じゃりン子チエ」

 

尾田栄一郎「ONE PIECE」

 

ちばてつや・高森朝雄「あしたのジョー」

 

などなど

気の向くままに読み進めた。

 

読み切れていない作品もある。

 

又吉直樹さんのyou tubeチャンネル

「渦」

インスタントフィクションがめちゃくちゃおもしろかった。

 

 

 

さて2022年がやってくる。

 

個人的には2021年の積み残しというか

引き続きの懸念が山ほどあるので憂鬱な面もあるものの

環境が変化した当初のような

途方に暮れる感じはなくなってきたので

なんとか乗り切りたい。

 

体力気力の著しい衰えとのたたかいになるかもしれない。

 

世界については

コロナ前のさまざまな問題

格差の拡大や社会システムの老朽化

コロナのせいで

どこまでがコロナによる問題で

どこからがコロナと無関係にそもそも問題だったか

というのがわからなくなってしまった。

 

いまから切り分けることにそれほど意味はないので

いまよりましな社会

いまよりましな地球環境を

未来に繋げるために何がベターか

という視点で思考し行動していきたい。

 

あと

呪いとか祈りとか

スピリチュアルなことに傾倒していくひとがどんどん増えそうな気もするので

そこはぼくとしては

冷静に見ていきたい。

 

とにかく

無事に2021年を終えられそうで

それはほんとうにありがとう。

 

ぼくは助けられて生きています。

 

ぼくも誰かの助けになっていたらいいな。

 

2022年には明るい気持ちの時間がもっと増えますように。