又吉直樹さんの
空想や想像や回想や記憶の入り混じった
日記というか随筆というかエッセイというかショートショートというか。
太宰の東京八景と富嶽百景が合わさったようなタイトル。
世間に流通する言葉をそのまま使うのではなく
正直に素朴に
自分の頭できちんと考えて言葉を選んでいる感じがとても好き。
子ども時代の話
家族の話
駆け出し芸人時代の話。
細部をよく記憶しているなあと思う。
読みながら
ぼくにもこういうことがあったような気がするけど
どんなふうに表現できるかなあ
と想像してみたけど
そもそも記憶に残っていないことが多いし
残っていたとしてもこんなふうにはなかなか書けないと思う。
でもなんとか記憶の断片でも引っ張り出して
自分の過去の記憶とそこからつながる空想を合わせてみたい。
この東京百景に書かれている内容は
その後の又吉さんの小説に描かれていることも多いし
テレビや講演会での話の素材になっていることも多い。
こういう喩え方は雑かもしれないけど
この東京百景じたいが
又吉さんのネタ帳みたいだ。
たとえば
76 池尻大橋の小さな部屋
は
劇場
の基本的な設定を支えている。
ぼくが
劇場
ですごく好きになった
沙希ちゃん
みたいなひとがいたんだ。
ここから話を膨らませて
劇場
になったんじゃないかと思うのは浅はかな考えかな。
ユーモラスなときもあれば
突き放したようなときもあり
けっしてわかりやすくはない
多面性を持つ人間というものを
低めの緊張感で表現してくれているので
又吉さんをますます身近に感じることができる。
なんといっても
考え過ぎというか
自意識過剰というか
勝手な想像が膨らみすぎて
かえって物事をややこしくしたり
身動きがとれなくなったりする
そういう性質に
ああぼくもそういうところあるなあ
と仲間意識を覚えるのが気持ちいいのだった。
--東京百景--
又吉直樹