ものすごくいい
というわけでもなかったが
まあおもしろいのはまちがいない。
ぼくにとっての町田康作品は
全体の内容はどうあれ
部分部分の表現がおもしろくて
すんなりと入ってくるので
読むのが楽なのである。
だから
ちょっと体調が万全とはいいがたいようなときでも
手にとりやすいのだ。
湖畔の愛。
どこかで町田康さんへのインタビューみたいなものがあって
そのなかに
吉本新喜劇のような感じ
みたいな表現があったと思うのだが
そのとおりまさにこれは
大胆にアレンジされた町田康バージョンの吉本新喜劇
といってもいい。
ぼくはそんなふうに読んだ。
舞台はほとんど湖畔のホテルのロビーで繰り広げられている
というイメージ。
実際には
ラウンジや部屋や湖周辺でのできごとも描かれているのだが
やろうと思えばそれらは全部ロビーでの会話のなかに紛れ込ませることができる。
無理な場合はナレーションででも。
まあそんなことは置いておいて
人間のだらしなさや移り気なところなど駄目な部分の描き方がいいんだよなあ。
ほんとうにどうしようもなくて
反省してもらいたいような行動パターンのひとたちで
それは実は自分にもそのまま跳ね返ってくるのだが
それを肯定はしないまでも
まあしゃあないよな
くらいには思ってる感じ。
これは開き直りなのかもしれないけど
そういうどうしようもなさをないことにするよりもよっぽどいいと思う。
自分でぼけて
それに自分で突っ込んで
さらにそれに自分で突っ込んで
さらにさらに
とどこまでも自分あるいは他者を客観的にメタ化していく思弁。
話はがらっと変わるが
この作品の美女の描き方も好き。
目がどうとか顔がどうとか髪がどうとかスタイルがどうとか
そういう細かな描写をすっ飛ばしてあるいは最小限にとどめて
美女な感じだけを提供して読者にイメージを預ける感じがいい。
だって細かな描写がなければ
自分の好きなタイプの美女を妄想して読めるわけだから。
そもそも写実的に妄想しなくても
とびきりの美女っていうことばのイメージだけで
もうじゅうぶん脳が快感を覚えるのである。
--湖畔の愛--
町田康