同意を求められても何と答えていいのかわからない。結局、こちらの答えを待つのでもなく、また一方的に話し出した。
「ひるこはとうとう葦船に入れられて流されちゃったの。いざなきといざなみにとってはひるこはこれでもうおしまい。そこからもういちどまぐわい直して、つぎつぎと国を産みましたとさ、めでたしめでたし。でもね、ひるこにとっては終わってなかったのよ。だってひるこは死ななかったんだもの。で、ひるこはそのあとどうなったと思う?」
そう言って手のひらの上のひるを再びこちらに差し出したものだから、ぎょっとして思わずこう言ってしまった。
「もしかしていま鳥に食べられているこのひるがひるこの子孫なの?」
「あはは、それも悪くはないわね。だけどはずれ、ひるこっていうのは漢字で書くと蛭子、ああ、口で言うのは難しいわね、虫偏に至るって書いて蛭、それに子どもの子、この字で何か思い浮かばない?」
「ああ、そういえばその字で、えびすって読むこともあったかな?」
「はい、今度は正解。えびすさまね。骨なしのひるこっていっても、元はいざなきといざなみから生まれてるんだから神には違いないわけ。だからひるこが葦船で流れ着いたその場所では、えびすさまとして大切にされたのよ」
そう言って目の前の彼女が微笑んだので、つい気が緩んだのがいけなかった。つられて同じように顔を緩めたその刹那、彼女の次のことばに一撃を食らわされた。
「だけどひるこは許さない。ひるこを捨てたいざなきといざなみを、そしてその子孫のこの国の神々を」
彼女は両手にあふれるひるを灰色の空に高くぶちまけた。