近づいてきて気付いたのだが、少女はたしかに少女らしい服装と髪型をしているものの、背の高さはおとなとかわりがない。
「ここの鳥たちはひるこが大好きなの。だからあたしがひるこをあげているのよ、ほら」
少女と思えた女の子は得意げに両方の手のひらをあわせてこちらに差し出した。そこにはうごめく大量のひるが載せられていた。手からあふれてこぼれ落ちるのもいる。もちろん彼女の手のひらは気味の悪い粘液でねっとりとしている。
目の前に突如差し出されたそれらにひるみながらも、精一杯の問いを投げかける。
「ひるこっていうのはひるのことかい?」
「ひるこはひるこよ。いざなきといざなみが最初にまぐわって生まれた子、国産みよりも先に生まれた子よ。生まれた時から骨がなくって、ひとやけもののからだに吸盤で張り付いて、血を吸って生きるのよ」
この子はいったいなんの話をしているのだろう。神話かおとぎ話か。どちらにしても奇妙な話だ。
黙って聞いているとなおも続けて言う。
「ひるこはかわいそう。だっていざなきといざなみに捨てられちゃう。骨がないからだって。ひるこが生まれたのはいざなきといざなみのまぐわい方がなってなかったからだって。どっちが先に声をかけたっていいじゃない、そう思わない?」