走り去る電車を見送った後、振り返ると駅の向こうに巨大なモニュメントがそびえたっているのが見えた。
白くて長い塔。まるで大地から圧倒的な生命のエネルギーが噴き出しているようなその威容。
モニュメントの周囲にはこの駅のほかに大きな建造物はない。広大な敷地の公園のなかにこの巨大なモニュメントとモノレールの駅があるだけだ。
空は灰色の厚い雲に覆われていて、すでに光が差し込むほどの雲の切れ間もなくなり、いまにも雨が降り出しそうだった。
濡れるのは嫌だな。
しかしいまは、ひろびろとした空間に出て空気を思い切り吸い込みたい気分の方が強いので、迷いながらも駅を出た。
さっきの男たちはこちらが何者か気付いていなかったのだろうか? 公園のなかを歩きながら考える。
目的地がないと歩きにくいので、とりあえずモニュメントを目指す。
ラベンダーの香りが充満する公園。この匂いはあまりにも月並み過ぎて好きではない。ほんとうは気持ちのいい香りのはずなのに、いろんなところで嗅ぎすぎて、すでに香りのインフレーションが起こり、価値が暴落している。
けれどもいまは降り出しそうな雨の匂いと混ざり合って、少しは気分を落ち着かせてくれるような気もする。匂いのブレンドというのも悪くない。