間もなく2016年が終わろうとしている。
1日1日を振り返れば
ろくでもない日や
がっかりした日
うちひしがれた日や
なさけなくなる日もあったはずなのだが
いまこの瞬間にはおだやかな気分でいられるのだから
これはきっとうれしいことに違いない。
ひとはひとによって
とんでもなくつらい気持ちにさせられたり
ものすごくしあわせな気分にしてもらえたりするわけで
やっぱりひとにはひとだよな
ってそう思う。
とてもいい出会いがあった。
このことを忘れない。
とても悲しいこともあった。
このことも忘れない。
英国と米国で起こったこと。
怠惰で傲慢なエスタブリッシュメントへの反撃。
人間はちっとも合理的な生き物ではない。
ここでもやはり
ひとは感情の生き物である
ということを
覚えておかなければ対応を間違う。
世の中にあふれるもっともらしい嘘。
真実よりも感覚が優先される風潮。
もちろん感覚は
ときに理屈を超えた正解を導き出すものではあるけれども
地道な理屈の積み重ねをムードひとつでひっくり返すのが横行すると
だれもていねいにものごとを考えようとしなくなる。
エスタブリッシュメントも彼らを攻撃する者たちも
どちらももっとまじめに
いまを
未来を
考えないといけないと思う。
それから
AI
と
技術的特異点・シンギュラリティがやってくる2045年問題。
すでに人間の選別と拡張が始まっているのを意識した1年でもあった。
今年特に印象に残った本をまとめておく。
★特に
人間って脳という器官に行動をコントロールされているな
と思わされたのは
中野信子さんと澤田匡人さんの
正しい恨みの晴らし方
ドーパミンとかシャーデンフロイデとか
人間って理性的に振る舞っているようでいて
けっきょくやっぱり動物なんだよな
ってことを思い返した。
脳も含む肉体の仕組みについて知っておくことは
人間の社会を観るときの視点を広げることになる。
脳関係でいうと
ウォルター・ミシェルさんの
マシュマロ・テスト:成功する子・しない子
とか
エレーヌ・フォックスさんの
脳科学は人格を変えられるか?
とか
ケヴィン・ダットンさんの
サイコパス 秘められた能力
とかは
最後までは読めなかったけどとても興味深かった。
★特に
世界ってけっきょくそういうことなんだろうな
と思わされたのは
筒井康隆さんの
モナドの領域
GODの話すことはまさにぼくが思い描く世界そのもの。
そんなのSFだよ
とか
都市伝説チックだよね
とか
中二の考えることじゃん
とか
そんなふうに思うひともたくさんいるだろうけど
悪ふざけをしているようにみせかけて
案外ほんとうにそうなんじゃないの
ってぼくなんかはそんなふうに思っている。
こういう系でいえば
上田岳弘さんの
異郷の友人
とか
中村文則さんの
教団X
とかも世界とはこういうものだ
っていう作品でおもしろく読んだ。
それから
川上弘美さんの
大きな鳥にさらわれないよう
も
AIとかクローンとかにより
人類の未来はこうなっているかもしれない
みたいな世界観がすごくよかった。
★特に
合理的経済人なんて少ないよな
と思わされたのは
ダン・アリエリーさんの
お金と感情と意思決定の白熱教室 楽しい行動経済学
人間の行動原理なんて倫理観とか理屈じゃなくて
気持ちいいかどうか
気持ち悪くないかどうか
っていうのが基準で
このスイッチを押したらここが動く
みたいな簡単な仕組みなのかもな
っていうのがさまざまな実験から説得力を持って伝わってきた。
実験がなんといってもおもしろい。
消費者は
選んでいるのではなく選ばされている
っていうのがよくわかる。
★特に
骨のある読書
になっているのは
トマス・ピンチョンさんの
重力の虹
今年はどうにか第一部まで読んだのだが
なにしろ分厚い
なにしろ難解。
ほんとうにこれはおもしろいのか
と思いつつ
独特の圧倒的な世界観に呑み込まれたりはじき出されたりしながら
来年は続きを読もうと思う。
★特に
無機的な味わいを持つ不思議な世界だ
と感じたのは
円城塔さんの
シャッフル航法
表題作を
やくしまるえつこの数字らじお
で
やくしまるえつこさんが朗読していたのを聴いて
これはなんと不思議な小説
と思って読んでみた。
他の作品も含めて無機的であることの魅力が読んでいてたのしく
読後もなんとなくその世界が頭の隅に残る感じ。
★特に
こんなおとなになりたい
と思わせてくれたのは
谷崎潤一郎さんの
客ぎらい
猫のしっぽがほしい
というところから始まる短い随筆なのだが
死ぬまでにやれる仕事の分量がもう決まっているからあたらしいことには手を出さない
とか
美女との付き合いもこれまでにすでに知り合っている美女との交際だけでよいからもうあたらしい美女との出会いはいらない
とか
こんなふうなことをいえるおとなになりたいとつくづく思った。
かっこいい。
★特に
漱石の美文は日本の良識だよな
と思ったのは
夏目漱石さんの
草枕
全体的に良識のある美文なのだが特に印象に残った一文がこれ。
--女はふふんと笑った。口元に侮りの波が微かに揺れた。
ふだんの会話でも使えないかとチャンスをうかがっているが
いまのところ使えていない。
★特に
おとなの恋愛ってときに慎重になりすぎるくらいがいいよね
って思ったのは
平野啓一郎さんの
マチネの終わりに
不倫ではないおとなの恋。
お互いをおもんぱかりすぎるが故に
わざわざ遠回りしたりすれ違ったり。
思いやりも大事だけど
はっきりと自分の思いを伝えるのも大事だよね。
でも
もどかしさ
っていうのもまた恋心を掻き立てる要素であったりもするんだよね。
★特に
戦争、ダメ、絶対に
って思いを深めさせてくれたのは
大島隆之さんの
特攻 なぜ拡大したのか
以前から思っているのだが
戦時もいまみたいな平時も
人間の行動原理なんて簡単には変わらない。
平時の人間の行動原理がそのまま戦時にも適用される。
つまり
平時から同調圧力の強い社会は
当然に戦時でも同調圧力の強い体制になる。
特攻に志願するあるいは志願させられる
特攻を戦術として決定する
特攻を戦術として継続する
どの選択をとっても
そこで動く人間の心理や組織の論理は
平時のそれと変わりない。
だからいまのあり方がとても大事なのだ。
★特に
幸福を学術的に分析するとこういう分類になるのか
と思ったのは
青山拓央さんの
幸福はなぜ哲学の問題になるのか
今年はぼくにとってなぜか幸福についてあれこれと考える1年だった。
最近のぼくの流行の考え方は
幸福とはドーパミンなどの快楽物質によってもたらされるものである
という極端なものなのだが
この本で紹介される幸福の分類
・快楽説
・欲求充足説
・客観的リスト説
っていうのは自分の考え方を整理するうえで参考になった。
来年はぼくの幸福に対する考え方をもう少し深化させたい。
最近
読書の記事を書いていないのは
記事を書くための読書みたいになっていることに少し疲れたのと
少し長めの本にとりかかっているのと
そういう理由による。
振り返ると
今年の前半はまあまあ記憶に残る作品に出会えたのだが
後半はなんとなく話題性はあるものの読んでみたら
ああそうですか
くらいの感想になってしまうものが多かったような気がする。
これはぼくの読書の感性が鈍ってきているせいなのかな。
とにもかくにも無事に今日という日を迎えられたこと
この1年でぼくの世界の見方が少し広がったことは間違いないこと
に感謝したいと思います。
来年も
こころふるわされ
価値観を揺さぶられるような
読書の体験がありますように。