運転席に乗り込む。
スウィッチを押しエンジンを始動する。
コンパクト・ディスクをカー・オーディオに挿し込む。
歓声が車内に響く。
ご機嫌なメロディーが流れてくる。
“流れ星ビバップ”
パーキング・ブレーキを解除し軽くアクセルを踏む。
さあ出発だ。
オザケンの歌声。
けっして歌唱力があるってわけではないのだがオザケンでなければ歌えないオザケンでなければしっくりこない彼の曲。
――真夏の果実をもぎとるように 僕らは何度もキスをした
ふと曲がやみオザケンの声が物語をはじめる。
“闇”
オザケンによるコラムのモノローグ。
ハートウォーミング。
こういうところがオザケンっぽい。
青い演出。
エバー・グリーン。
聴いているこちらに気恥ずかしささえ感じさせるこの青臭さがオザケン。
そして再び“流れ星ビバップ”
高速道路に入る。
天気は快晴。
凍える大気にどこまでも青く透き通った空。
ドラムがリズムを刻む。
スカパラのフォーンが軽やかに響く。
“ぼくらが旅に出る理由”
あの頃を思い出す。
――遠くまで旅する恋人に あふれる幸せを祈るよ
“想像力”
モノローグ。
ふらふらと揺れる展開。
ひふみよいつむなやの発音にまつわるロマンチックな理由。
――海岸を歩く人たちが砂に 遠く長く足跡をつけていく
“天使たちのシーン”
ゴスペルを思わせるこの曲はしっかりと聴きたい。
あれ?ちょっとインプロヴァイゼーション。
歌い方がライブ仕様に。
ライブだからこれはこれでいいんだけど普通に歌ってほしいと思うぼくもいて。
口ずさみたかったのにこれではなんだか不完全燃焼。
――神様を信じる強さを僕に 生きることをあきらめてしまわぬように
“いちごが染まる”
聴いたことがなかったけど吟遊詩人たるオザケンにはふさわしい曲。
“ローラースケート・パーク”
ご機嫌なギターのメロディーからスタート。
かわいい曲。
――ありとあらゆる種類の言葉を知って 何も言えなくなるなんてそんなバカなあやまちはしないのさ!
と思うとすぐに
“東京恋愛専科”
さらに再び
“ローラースケートパーク”
ポップで楽観的なナンバーのメドレー。
盛り上がった曲の終わりでオザケンらしくはぐらかす。
高速道路を降りる。
住宅街に入る。
あまりひとは歩いていない。
コンパクト・ディスクを入れ替える。
――我ら、時(第一盤)――
小沢健二