レイ・ブラッドベリの“華氏451度”
ジョージ・オーウェルの“動物農場”
と
いわゆるディストピアものをたて続けに読んだせいで
日本の名文に触れたくなったのも
無理からぬ話。
ってことで
ひさしぶりのオダサク。
オダサクの短篇はキレがあるのにコクがある。
芥川の短篇の厳しいキレも好きなのだが
人情味あふれるのがオダサクのいいところ。
療養のため
さびれた温泉宿に長逗留することになった主人公。
宿の隣の部屋には先客の夫婦がいて
はじめはなんとなく主人公も気を使うのだが
その夫婦がどうにもこうにも品がないというかなんというか
お互いのいない間に
お互いの悪口を主人公に話しかけてくる。
まいったなあ関わり合いになりたくないなあ
と主人公は困るのだが
だんだんと忌々しさが募ってくる。
しかしやがて
この夫婦はこうやって罵り合いながらも
実は睦まじいのだということに気づく。
ぼくなんかにはとうてい受け入れがたいのだが
それでも彼らは彼らなりに幸福なのだ。
現実の世界にもこういうのはよくある話。
なぜこのふたりがいつまでも離れずにくっついているのか
って不思議なカップル。
ぼくが考える幸福な男女の関係と
ほかのひとが考える幸福な男女の関係
っていうのはものすごく違いがあるのかもしれない。
っていうか
ぼくの価値観が狭いのかな。
ぼくのシアワセ
彼らのシアワセ
みんなちがって
みんないい
って金子みすずっぽくいいたくもなる。
主人公の視点がやさしい。
ただやさしいのではなく人間味があふれている。
滑稽で悲しくてほのかにしあわせ。
とにもかくにも
小気味よく刻まれるテンポと
選ぶ素材
それにさらっと味わい深い表現が抜群。
さすがオダサク。
――秋深き――
織田作之助