地味な始まりである。
植物を育てる女。
退屈な主婦。
毎日どこからか聴こえるピアノの音。
上手な演奏のようでいてときおりつまづく指づかい。
そのピアノの奏で手と出会ったところから物語が動き出す。
地味に。地味に。地味に。
いったいこの先この地味な物語はどこに向かっていくのだろう、あるいはどこにも向かわないのだろうか、とどぎまぎしながら読み進めていくと、思わぬ高揚感に遭遇して驚くことになる。
ああ、そんなことになるのか。
リストの愛の夢を思わず聴いてみる。
うつくしいその旋律。
ありそうでない、不思議なお話である。
女たちの時間の流れはいつも謎。
――愛の夢とか――
川上未映子