原題は SLIGHTLY OUT OF FOCUS
以前、テレビのチャンネルをうろついていたときに、画面に映し出されたモノクロの写真に引っかかった。
沢木耕太郎さんが報道写真家のロバート・キャパについて迫っているNHKスペシャルだった。
番組の全部はみなかったのだが、これをきっかけに、ちょっとピンぼけを読みたくなった。
なぜか学生時代に、このキャパの名を講義で知った。
その講義では、キャパやマグナム・フォトスの活動を紹介していた。
青き学生のぼくは戦場カメラマンって恰好いいな、と素直に感じた程度だった。
その後の生活で、戦争というものがいかなるものかということを断片的にではあるが知るに至った。
いまのぼくは戦争にいかなる美談も認めない。
もちろん確実に戦争に美の魔力が宿っているであろうことは想像できる。
生死のぎりぎりのところ、正気と狂気のはざまは、美が好んで出入りするところだ。
だからこそ、そこに美を見出すなんて安易で反則なのではないかとぼくは思う。
むしろ平穏な日常のなかに美を見出すべきである、と。
そういうぼくなのではあるが、この、ちょっとピンぼけを読んでいると、やはり恰好いいと思ってしまう。
男の血がたぎる、というか。
キャパは知的な冒険者である。
戦場の最前線でのパラシュート降下さえ辞さない。
敵と間違えられて、味方に撃たれそうにもなる。
自殺志願者とか名誉欲に駆られていたとか、先駆者であるだけにあらゆる角度から批判もされているけれども、写真という冷徹なツールを用いて世界を駆けまわっていた姿は、単純に爽快なのである。
恋と仕事と友情と。
戦争の悲惨さ、無慈悲さ、残酷さは、ほとんど軽く扱われているように感じられるが、そのあっけらかんとした姿勢こそが、戦争の現場そのものの空気であるのかもしれない。
戦争が始まってしまった以上、運命を恨みながらでも罵りながらでもそこで生きていくしかないのだ、と。
異常であるはずの戦時でさえもしばらくすれば日常になるという。
それでもときおりキャパがのぞかせる人間味に、むしろ愛すべき人間の姿が浮かび上がってくるのである。
キャパは戦場に憑りつかれていたのか。
血に飢えていたのか。
フォト・ジャーナリズムによって戦争を止めようとは考えなかったのか。
そんな動機はこの1冊では知る由もないが、とにかくこの行動力には意味を超えてあこがれてしまうのだ。
――ちょっとピンぼけ――
ロバート・キャパ
井上清壹 川添浩史 訳