読み始めてイチがなんとなく蹴りたい背中のにな川に雰囲気が似ているなと思った。
蹴りたい背中といえば綿矢りささんの芥川賞受賞作で史上最年少の19歳で受賞という話題性で思わず購入して読んだのである。
それがぼくの初綿矢作品でありかつ唯一読んだことのある綿矢作品であった。
というのも当時のぼくはなんだか背伸びして本格小説的なもの(と自分で勝手に思っていたもの)を好んで読んでいたのであるが、蹴りたい背中はどうにも軽く感じられて、もういいかあ、って読み流してしまったからである。
また芥川賞というと当時のぼくは新人賞であることを知らず、芥川龍之介に匹敵する才能の持ち主に贈られる賞だと勘違いしていて、そのイメージで手に取った蹴りたい背中はあまりにも芥川作品とはかけ離れていたのでギャップについていけなかったというのもある。
まあそんなこんなでそれ以来綿矢さんの作品は追っていなかったのであるが、来月、芦屋の読書サロンに綿矢さんが来ると知り、行けるかどうかはわからないけれども行けた時のために最近の作品を読んでおこうと考えて選んだのがこの勝手にふるえてろである。
主人公のOLさんが片思いのイチと片思われのニとの間でいろいろな妄想を繰り返す話、っていう言い方はちっとも的を射ていないけれども、ちょっと周囲から浮いてる感じのイチの雰囲気がにな川に似ていると感じたのである。
でエンディングの設定はぼくの好みではないのだが、綿矢さんの文章はぼくの好みであることがこの勝手にふるえてろでわかった。
なんだろ、ポップでシニカルで周囲の世界になじまない感じ、っていったらいいだろうか。
登場人物たちを適度にコケにしつつ、彼女らに注ぐ視線はやさしい、というか。
人間同士の通じなさ加減、わかりあえなさ加減っていうのがよく描かれている、というか。
人間観察の皮肉っぽい表現もぼくの好みである。
さらっと読めてしまうし、あとでじんわりくる、っていうのでもないけれども、ときどき読んでみよっかな、とは思う。
ちょっとちがう雰囲気の作品も読んでみたい。
――勝手にふるえてろ――
綿矢りさ