きらクラ!のBGM選手権のお題に
――駄目だかどうだか、自分で実際やってみて転倒して傷ついて、それからでなければ言えない言葉だ。何もしないさきから、僕は駄目だときめてしまうのは、それあ怠惰だ。(太宰治)
という一文が入っていて、その一文が太宰にしてはポジティブなトーンに思えてどの作品か気になったので調べてみると
みみずく通信
だった。
太宰デビューが遅かったぼくなのだが、中学か高校の教科書に載っていて読んだことがあるような気もするし、タイトルを目にしただけのような気もする。
いずれにしても内容を覚えていない。
おそらく読んでいたとしても、当時のぼくにはピンと来なかっただろう。
なぜなら自分の弱さや狡さを直視できないお子さまだったから、太宰の自らの傷口をさらりとさらけだすようなこの文章の機微は理解できなかったに違いない。
でもいまなら少しはわかるような気がする。
新潟の高等学校に招かれて生徒たちの前で講演する太宰。
なんて贅沢な講演なんだろう。
しかも自作の朗読まで。
朗読をする理由もふるっている。
なんて正直なんだろう。
太宰がみずから語る私小説のこと、そして告白の限度のこと、自己暴露の底の愛情のこと。
語っているうちにトカトントンの音が聞こえたりしてそこがまたいい。
あと自分の服装に気後れしたりしてなんだかやるせないというかかわいいというか。
講演のあと、学生たちと訪れた日本海の海岸。
佐渡を眺めて思い出す芭蕉の句と想像するユーモア。
学生たちと語る朝日と夕日の対比と夕日の比喩。
学生の駄洒落にこころのなかで憤慨してみたり。
そしてイタリヤ軒で食事しながらの学生とのやりとりのなかで
――駄目だかどうだか、自分で実際やってみて転倒して傷ついて、それからでなければ言えない言葉だ。何もしないさきから、僕は駄目だときめてしまうのは、それあ怠惰だ。
という言葉が出てくるのだが、果たしてそれは学生に向けた言葉だったのか、自分に向けた言葉だったのか。
素直にポジティブとは言い切れないこの表現がいとおしくなる。
この複雑で正直な太宰の心象描写にぼくなんかは参ってしまうのである。
――みみずく通信――
太宰治