その書店はあつい緑におおわれた森を流れる川の中にある。
慣れれば誰でも簡単にたどり着けるのだが初めて訪れようとする人はその行き方に戸惑う。
森の小道を歩いて川のそばまではたいして苦もなく近づける。
そこから先がやっかいだ。
知識としてはわかっているが本当にだいじょうぶなのだろうか。
思い切って靴のまま川の水に足を浸ける。
すると突然からだが縮みわたしはさかなになった。
きいていたとおりだ。
泳ぎだって達者なものだ。
すいすいと気持ちよく水をきり流れにのってその書店に到着した。
外観は昔話の竜宮城。
雅やかで絢爛豪華。
川の中にこんな場所があるなんて。
入り口の門を通りドアを開けて店内に入る。
たくさんの本、本、本。
本の海。
いろとりどりの背表紙にはあらゆる言語のタイトルが並ぶ。
世界各国古今東西の品ぞろえがこの書店の自慢。
さかなの姿のままで気ままに1冊を手にとる。
すべての本は原語で書かれているが翻訳されていなくてもその本がなぜだか読める。
あこがれの原書がするすると自然に読める。
言葉がわかるだけではなくてある程度その言語にまつわる文化的な背景も不思議とイメージできる。
原語のままなので言葉遊びや文章のリズムが母語のように伝わってくる。
そんな書店があったなら時を忘れて過ごせるだろう。
玉手箱を開けてしまった浦島太郎になってもいいよ。