土星を見るひと | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

西向きの窓から

強い風が吹き込んできて

気持ちいい。


朝から晴れたり曇ったり雨が降ったり

忙しい天気だ。


一時期

椎名誠さんに熱中していたことがある。


椎名誠さんといえば

おじさんの探検。


それももちろん楽しいのだけれども

こんな短篇集もある。


土星を見るひと。


乾いた筆致でありつつ

素朴な人間の感情のはかなさと力強さを

同時に感じる。


久しぶりに読み返して

そこに描かれる不思議な世界に身を委ねた。


どの作品にも通底するのは

男の身勝手な哀愁とロマンチシズム

であろうか。


女性からすると

まったくもって意味不明であるに違いないが

男なら誰でも少しはこの気持ちがわかるんじゃないかなあ。


一昔前の男たち

ってことになるかもしれないけど。


うねり

壁の蛇

クックタウンの一日

桟橋のむこう

コッポラコートの私小説

ボールド山に風が吹く


どの作品もぼくの好みにぴったりで

読んでいてしっくりくる。


ところで

ぼくが一番読みたかったのは

表題作の

土星を見るひと。


妻、娘、犬のケン。


同僚。


取材対象である

土星を見るひと。


望遠鏡から眺める土星。


ほんの少しの時間で枠から外れていく。


じっと見ているつもりで

実は見ることはできていない。


不変のものだと思い込んでいたのに

相対的に変化する関係。


それは家族や同僚とのつながりとも共通する。


土星を見るひと

とは1人ではなく

何十年もかけた観測のリレーチームの総称。

観測とは対象物をじっと見続けること。


何年も前の人の仕事を受け継ぎ

自分の仕事は何年も後の人に送り出し。


土星をみるひとを通して

12億5千万キロの彼方にロマンを求める主人公。


その一方で近くの家族とはすれ違っていく。


しょうがないじゃないか

というそのことば。


あなたはいつだってそうなのね

というそのことば。


男と女は愛し合えるけれども

わかり合えることはないのではないか。


そんなふうに考えてしまうのが

そもそも身勝手で

愛し合えてすらいないことの証明なのだろうか。





-土星を見るひと-

椎名誠