これだから読書はやめられない。
こういう作品に出会うとそう思う。
それでも三月は、また
に収められている
いしいしんじさんの
ルル。
この短編を読み始めてから読み終えるまで
ずっと目が潤んでいた。
自分でいうのはなんだけど
きれいな涙だったと思う。
抑え目の表現で
しかも抽象的な描写なんだけど
あたかもぼくのこころも
ルルになでてもらっているように感じながら読んでいた。
聖なる軽さ
とでもいおうか
浮遊感
あるいは
重力の束縛から解放されたかのような文章に
リアル以上のリアリティを感じた。
虚実のさかいめをとりはらったような世界。
ほんとうにやさしい物語だった。
ぼくはそんなに傷ついて生きているわけじゃないけど
日本のどこかでいま傷ついている人が
ルルになでてもらえたらいいのにな
って思う。
そしてルルがいとおしい。
ほんとうにいい時間をもらったな。
―ルル―
いしいしんじ