わるこ | (本好きな)かめのあゆみ

(本好きな)かめのあゆみ

かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

たまたま抽選で当たったので

とあるスタジオに赴いた。


暗がりのスタジオの中

前方のステージにはまぶしい照明の光が降り注ぎ

50人くらいのアイドル風の女性たちが

かわいらしい衣装を身にまといながら

歌い踊っている。


久しぶりのライブ感。


軽い気持ちでやってきたのだが

しばらく観察してみると

歌もダンスもあなどれない。


かかっている音楽も

ポップでキャッチ―ながら

手の込んだ編曲と演奏がなされている。


ステージの下には

ぼくと同じように抽選で招待されたファンたちが

パイプ椅子を並べた急ごしらえらしき客席に座っている。

総勢50人くらいか。


客席は通路を隔てて前方と後方に分かれており

前方には中高生の男女らしき若者たちが

後方にはおとなの男女が座っている。


ぼくはスタジオの後方から前方の客席とステージの全体を眺めている。


もともとぼくはこのグループのファンというわけではなく

どういういきさつだったかたまたま抽選にあたったため

興味本位で参加しただけなのだ。

だからこの集まりがどういうあつまりなのかはよくわかっていない。


それでも50人ものかわいらしいアイドル風の女性たちが

それなりに高いクオリティでパフォーマンスしている様子は

観ていて単純にたのしい。


引き続きしばらく眺めていると

ときおりステージ上でのパフォーマンスに対し

演出家と思しき人が細かい指示を出していることに気付いた。


演出家は1人だけではなく何人かいて

それぞれ歌唱やダンスなど指導の役割が分かれているようだ。


さらに観察すると

指導している人たちは

その筋ではそれぞれ一流の活躍をしている

そうそうたるメンバーであることに気付く。

ぼくでも知っている人たちだ。


どうりでクオリティの高いパフォーマンスがうまれるわけだ。

彼女たちの人気の理由はここにあるのか。


こうしてみるとどうやらこの集まりは

コンサートやライブの本番というわけではなくて

リハーサルのようだ。


リハーサルの様子をみてもらうという

ある種のファンサービスなのだろうか。


何曲か披露されたとき

ぼくの手元に走り書きのメモのようなものが

会場のスタッフから届けられた。


そのメモには

聴きながらその場で走り書きしたような汚い文字で

いま彼女たちが歌っている曲の歌詞が書かれていた。


どうやらほかのファンたちにも

それぞれ異なる歌詞が書かれたメモが渡されているようだ。


いつのまにやらリハーサルは終わり

ぼくたちはスタジオの外に出た。


外では先ほどまでステージ上で歌い踊っていた彼女たち50人くらいが

1列に並んで待っていた。


一番手前には

篠田麻里子さん風の女性が立っており

「みなさん、先ほどお渡しした歌詞カードをおみせください」

といいながらファンのひとりひとりのメモをチェックし

そこに書かれている歌詞をみながら

それぞれのファンをどこかに誘導していた。


順番がまわってきてぼくのメモをみた篠田麻里子さん風の女性は

「あなたはワルコだから向こうの端ですね」

と告げてあっけにとられたぼくが質問する間もなく

すぐさま次のひとのカードのチェックに入った。


わけが分からないまま告げられたとおりに反対側の端に向かいながら

歌詞カードといわれるメモをみると確かにそこには

「わるこ」

という下手くそな文字が歌詞のなかに混じって書かれていた。


そんな歌ってあったっけ?

と思っても思い出せず。


とにかく端まで来てみたもののどうしていいかわからずに

頼りになるのはこのキーワードだけだと思い立ち

「わるこ」

とつぶやいてみた。


すると端から5番目の女性が

残念そうな表情を隠しもせずに

「はーい」

と右手をゆっくりあげた。


どうやらその女性が「わるこ」だったようだ。


こうしてなにやら怪しげな

メンバーとファンとの組み合わせがひととおりまとまると

みんなで近くのカフェに移動した。


貸し切りのようだった。


リハーサルのあとはこのカフェで

ファンとの交流会ということか。


紙コップにめいめいが好きな飲み物を入れていく。

中高生も参加している交流会だから

アルコールはないようだ。

茶話会みたいな感じ。

「わるこ」はあざやかなピンク色のストロベリーシェイクを選んでいた。


ぼくと「わるこ」がペアになったとはいうものの

2人きりで交流するというわけではなく

テーブルのまわりには何組かのペアが向かい合うようにして座った。


「わるこ」は気まぐれなタイプのようで

思いつくままに話題があっちへ行ったりこっちへ行ったりするので

ぼくはうまく会話についていけずしどろもどろになっていた。


「わるこ」はそんなぼくにはお構いなしに

自分が興味のあることだけを話していた。


「わるこ」はなんとなく仲里依紗さんに似ているなと思った。


いくつかの話題が唐突に浮かんでは消えていったあと

「わたし、阪神のフクモト2軍コーチが好きなの」

と「わるこ」が言った。


ぼくはあまり野球に興味がないため

フクモトとかいう人のイメージが思い浮かぶこともなく

そもそも阪神の2軍にそんなコーチがいるのかどうかも知らないわけで

またもやこの話題も消えるだろうなあと思っていると

「きみ、フクモトコーチが好きだとはなかなか見る目があるね」

とぼくたちのテーブルの向かいに座って

別のメンバーとペアになって話していた男性が割り込んできて

「わるこ」とその話題で盛り上がり始めた。


他人の力を借りたとはいえ

その場がようやく活気づいてきたのでぼくは少しほっとしてうれしくなった。


そしてふと思う。


そういえばこんな感じってどこかで経験したことがあるような気がする。

ああそうかあれか。

このグループの人気が出た理由は

あれをビジネスモデルにしてるせいだったのか。

なんだか納得。


って謎が解けたつもりになった時に目が覚めた。