ちょっときいてくれへん?
忙しいからちょっとだけやで。
まあそうゆわんときいてや。
いったいなんなん。
実はな、好きな人ができてん。
ほんまあ。
でな、その人のこと好きすぎて、いっつもどういう生活してるか気になって気になってしゃあないねん。
まあ、そういう気持ちになることもあるわな。
それで考えてん。
なにを?
テレビ電話ってあるやん。その人のおでこのあたりに、超小型のカメラつき携帯電話を埋め込んで、ずっとテレビ電話の状態にしといたら、その人がみた景色がそのまま、こっちの携帯に送られてくるやろ。それをみてたらどういう生活してるかわかるんちゃうかなって思ってん。
むちゃくちゃやな。っていうかおそろしいこと考えるねんなあ。
でな、知り合いの技術者に頼んでつくってもらってん。
うっそお。技術って進歩してんねんなあ。そんなもんまでつくれるんかあ。でもまさかほんまにその人のおでこに埋め込むわけにはいかんわなあ。
そう思う?でもな、これまた知り合いの整形外科医に頼んで埋め込んでもらってん。
げっ。ありえへん。ようその好きな人もそんなん同意してくれたなあ。
いや、内緒で寝てる間にちょちょっとやってもらってん。
どういうこと?そんなん許されるわけ?
それはわかれへんけど。
いや、わかれよ。
まあ、そういうわけで、その人のおでこに仕込んだ携帯から送られてくる画像を何日間か毎日みとってん。
異常な展開過ぎてこっちの感覚が麻痺してきたわ。で、いちおうきいとくけどどうやったん。あんまりいい趣味とは思わんけど。
それがな、新鮮な気分ですごいおもしろかってん。それに一心同体になった気分っていうか、その人のことがますます好きになってん。
まあよかったやん。微妙やけど。
でもな、いいことばかりじゃなかってん。何日かしたらな、その人が浮気してそうな気配が伝わってきてん。
あらあら。ゆわんこっちゃない。人間誰しも開けたらあかんふたがあるねん。知りすぎるのもよしわるしやなあ。
でな、黙っとこうと思ってんけど、つい浮気してるんちゃうかって問い詰めてしまってん。
修羅場やな。
なんでそんなふうに思うの?ってきかれて、うっかりとおでこに埋めた携帯電話のことをしゃべってしまってん。
うわあ、最悪やなあ。その人、めちゃめちゃきれたんちゃう?
それがなあ、ひとこと、ふううん、ってゆっただけやってん。
えっ?ふううん、って?その人も変わってんなあ。で、どうなったん。
浮気なんてしてないから気にせんといて、ってゆわれてあとは特に何もなし。
変なやりとりやなあ。まあ、もともと非常識ななりゆきやから、いまさらどういう展開になっても驚かんけど。
でな、その次の日から送られてくる映像からは、浮気の気配がぴたりとやんでん。
っていうかおでこの携帯はそのままなん?無頓着というかなんというか。
これで浮気もおさまったんや、と思って安心しててんけどな、何日かして、ちょっと違和感を感じてん。
なになに?
あまりにも生活が品行方正やねん。
よかったやん。
いや、どう考えてもおかしいねん。それまで毎晩のように遊んでたのに、ぷつりと遊ばんようになって、毎日、決まった時間に起きて決まった時間に寝て、合い間には本とか読んでるねん。
そういうこともあるんちゃうん?
でな、よう注意してみてたら、どうやら毎日おんなじ映像が繰り返し送られてきててん。
それってもしかして。
そう、どういう方法かわからんねんけど、偽の映像を送ってきてることがわかってん。
うわっ、そんな映画、むかしあったなあ。
それでな、その人にきいてん。どういうことなん?って。
そしたらなんてこたえたん?
それがじぶんにとっての理想の生活やから、技術者と整形外科医、できれば脳外科医にも頼んで、この映像をじぶんの脳に直接送るようにできへんか、って。