これもよかった。
うーん
うまいうまい実にうまい。
時代の雰囲気を
ほんとうに新鮮に切り取っている。
小説の瞬間冷凍。
戦中から戦後すぐの混乱期にかけての
時代背景で
大阪市内のまちなみが
目の前に浮かぶように詳細に描かれている。
庶民の物価水準やら金銭感覚やらも
切れば血が噴き出すくらいに
なまなましい。
無意識に描いた時代の小道具は
ともすればただちに陳腐化してしまって
数年後には読むのが気恥ずかしくなるものだが
オダサクは
きわめて意図的にこれを描いているので
いつになっても生き生きとしている。
時代背景はそういうことなのだが
ものがたりとしては
オダサクが小説の構想を
いかにして練っているか
その素材をどのように集めているか
っていうようなことが語られていて
リアルかフィクションかはともかくとして
そのへんも興味深い。
スタンド酒場ダイスのなかでの
オダサクと
左翼くずれの同盟記者の
海老原という文学青年とのやりとりが
おもしろい。
オダサクは
「しどろもどろの詭弁を弄していた」
と言っているが
15行にも及ぶ「 」書きのオダサクの主張は
なかなかに作者の作品への態度を
真実あらわしているのではないかと思える。
終盤に向かって
ものがたりがきれいに収束していくさまも
うつくしい。
こういう作品世界に触れていると
なんだか知的になったような勘違いができて
そういう面でもうれしい読書になるのである。
-世相-
織田作之助